夜の空気は冬の終わりの匂いがして、冷たくて少しだけ湿っていて、その湿り気が胸の奥に沈んでいたものをゆっくりと浮かび上がらせるように広がり、柚歩はゆっくりと息を吸い込み、喉の奥がひりつくのを感じながらも声は出せるはずなのに、出そうとすると震えてしまい、その震えが胸の奥の痛みと重なっていくのをただ受け止めていた。
母がいなくなってから、言葉を発しようとするたびに胸が痛み、声が出ないわけではなく、ただ“声を出すこと”そのものが怖くなり、息を吸うだけで胸の奥がきゅっと縮むようになってしまい、だから夜の公園に来るようになり、ここだけが唯一落ち着ける場所で、誰もいない場所で、誰にも聞かれない場所で、震える声を少しずつ外に出すための場所になっていた。
柚歩はブランコの前に立ち、震える指で胸元を押さえ、息を整えようとするように目を閉じた。
「……お母さん」
その声はかすれて途切れたけれど、確かに“声”にはなっていて、その瞬間に胸の奥がじんわりと痛み、涙が一粒、一粒と頬を伝って落ち、冷たい地面に吸い込まれていき、その音さえ聞こえない静けさの中で柚歩はただ立ち尽くしていた。
歌を歌いたかった。
歌わなきゃ壊れてしまいそうだった。
喉が震え、声は弱くてか細くて今にも消えそうだったけれど、それでも柚歩は歌い、泣きながら、震えながら、途切れ途切れの旋律を夜の空に放ち、その音が自分の痛みを少しだけ外へ押し出していくように広がっていった。
そのときだった。
——誰かが、聴いていた。
母がいなくなってから、言葉を発しようとするたびに胸が痛み、声が出ないわけではなく、ただ“声を出すこと”そのものが怖くなり、息を吸うだけで胸の奥がきゅっと縮むようになってしまい、だから夜の公園に来るようになり、ここだけが唯一落ち着ける場所で、誰もいない場所で、誰にも聞かれない場所で、震える声を少しずつ外に出すための場所になっていた。
柚歩はブランコの前に立ち、震える指で胸元を押さえ、息を整えようとするように目を閉じた。
「……お母さん」
その声はかすれて途切れたけれど、確かに“声”にはなっていて、その瞬間に胸の奥がじんわりと痛み、涙が一粒、一粒と頬を伝って落ち、冷たい地面に吸い込まれていき、その音さえ聞こえない静けさの中で柚歩はただ立ち尽くしていた。
歌を歌いたかった。
歌わなきゃ壊れてしまいそうだった。
喉が震え、声は弱くてか細くて今にも消えそうだったけれど、それでも柚歩は歌い、泣きながら、震えながら、途切れ途切れの旋律を夜の空に放ち、その音が自分の痛みを少しだけ外へ押し出していくように広がっていった。
そのときだった。
——誰かが、聴いていた。

