泣きたくなったら、こっちへおいで

 


「……」

 晴永の目を、真っ直ぐに見つめる。
 彼も私から目を逸せないように。

 そうしていると、晴永の口角がふいに下がった。そして彼は目元を押さえながらグイ、と思い切りジョッキを呷る。
 ビールを一気に飲み干しもう一度私に向き直った彼の目には、今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっていた。

「晴永、」

「……俺さ、いつもは気合い入れて笑ってるけど、本当はこんなふうにすぐ泣くんだよ。ちょっとでも何かあった時とか、何もなくても、緊張したり気持ちが昂ったり、ドラマ見たり本読んだりしててもすぐ」

 伏し目になった晴永が瞬きをすると、瞼の中に収まりきれなくなった涙がぽろりと落ちた。
 それを皮切りに、ぽろり、ぽろり、と彼の目尻から次々と小さな雫がこぼれていく。

「今日は結構クロージング苦労してさ、月末だし成約まで行けるかギリなところだったからちょっと力んだというか……その反動で。いい歳した男が情けないだろ」

 彼は二の腕で目元を拭うと、田中にはいいとこ見せたかったのにな、と脱力したように笑った。
 

 ……いったい私は、彼のどこを見て、何を知った気になっていたのだろう。
 朝から晩までずっと元気。ずっと全力。ずっと笑顔。
 晴れた夏の日差しのように、キラキラ、ギラギラと。
 彼は元来そういう人だから。私とは違うから。

 ──そんなの、大嘘だ。


「……ごめん、晴永。私勘違いしてた」

 ガーゼのハンカチを握り締め、私は晴永の隣へ移動した。
 膝立ちになり彼の頬に手を添えながら目元を優しく拭うと、彼はありがと、と言ってくすぐったそうにまた笑う。

「勘違い?」

「うん、てっきり口が達者なノンストップハイテンション直射日光野郎だと」

「ははっ、何それ直射日光? ……まあでも、田中が俺のこと嫌ってそうなのは薄々気付いてたけど」

「いや、嫌いというほどでは……」

 口ごもると「好きではなかったでしょ?」と追撃され、私はしぶしぶ頷く。

「……泣き虫野郎で、もっと嫌になった?」

 晴永の声が少しだけ小さくなった。
 ハンカチを彼の顔から離してみると、涙をたっぷりと溜め込んだ大きな瞳がおそるおそる伺うように私を見上げてくる。
 
 垂れ下がった眉も、ほんのり赤く染まった目元も、ふるふると微かに震える薄い唇も。
 どこか不安そうに、縋るように、今この世界でただひとり私にだけ向けられた表情も。

 全部、全部。


「……忘れたの? さっき私にキスされたこと」


 返事の代わりに、私はもう一度晴永に口付けた。
 さっきは擦るように触れただけだったけれど、今度はもう少し深くまで触れてみる。
 問いかけるように辿る舌先に、晴永も柔らかい唇を開いて応えてくれた。

 ……ああたぶん、愛おしいって、こういう気持ちなんだろうな。

 彼は無理して作る笑顔よりも、ありのままの泣き顔のほうがよく似合う。