莉美たちが席を外したあと、個室には私と翠だけが残った。
さっきまで賑やかだった空間が、急に静かになる。
何を話せばいいのか分からなくて、とりあえずグラスに手を伸ばした。
その時だった。
「ねえ」
翠が私を見る。
心臓が跳ねた。
「ホテルの時のこと、覚えてる?」
もちろん覚えている。
忘れられるわけがない。
人生で一番勇気を出した日だった。
「覚えてます」
そう答えると、翠は少し笑った。
「よかった」
その言葉に、なぜか胸がざわつく。
「忘れるわけないです」
私がそう言うと、翠は一瞬だけ視線を落とした。
そして静かに続ける。
「実は俺も覚えてた」
思わず顔を上げた。
「え?」
「驚いた?」
「そりゃ驚きますよ」
だって相手は人気アイドルだ。
毎日何百人、何千人もの人と接している。
たった数分話しただけのファンを覚えているなんて思わない。
すると翠は肩をすくめた。
「普通は忘れるよな」
少し笑いながら言う。
「でも、梓さんは結構印象に残ってた」
自分の名前が翠の口から出て、一瞬呼吸が止まる。
「なんでですか?」
気づけば聞いていた。
翠は少し考えるように天井を見上げる。
「なんだろうな」
そして私を見る。
「あの日、俺の目を真っ直ぐ見て話してたじゃん」
私は固まった。
「緊張してるのは分かったけど、それでもちゃんと目を見て話してくれた」
翠は優しく笑う。
「意外とそういう人、少ないんだよ」
胸が熱くなる。
そんなこと考えたこともなかった。
ただ必死だっただけなのに。
「あと」
翠は続けた。
「普通だったら写真とかサインとか、連絡先とか聞くじゃん」
確かにそうかもしれない。
でも私はそんなこと考える余裕もなかった。
好きだと伝えられただけで十分だったから。
「なのに梓さん、『ずっと応援してます』って言ったあと、そのまま帰ろうとしてた」
思わず笑ってしまう。
「逃げました」
「うん、逃げてた」
翠も笑った。
「あれが面白かった」
「面白かったって何ですか」
「いや、なんかさ」
翠は少しだけ真面目な顔になる。
「俺じゃなくて、ちゃんと『天宮翠』を応援してくれてる人なんだなって思った」
その言葉に胸がぎゅっと締め付けられた。
ずっと好きだった人に。
ずっと応援してきた人に。
そんな風に思ってもらえていたなんて。
知らなかった。
翠は静かにグラスを持ち上げる。
「だから今日、扉開けた瞬間びっくりした」
そして少しだけ照れたように笑った。
「まさか、また会えるとは思ってなかったから」
さっきまで賑やかだった空間が、急に静かになる。
何を話せばいいのか分からなくて、とりあえずグラスに手を伸ばした。
その時だった。
「ねえ」
翠が私を見る。
心臓が跳ねた。
「ホテルの時のこと、覚えてる?」
もちろん覚えている。
忘れられるわけがない。
人生で一番勇気を出した日だった。
「覚えてます」
そう答えると、翠は少し笑った。
「よかった」
その言葉に、なぜか胸がざわつく。
「忘れるわけないです」
私がそう言うと、翠は一瞬だけ視線を落とした。
そして静かに続ける。
「実は俺も覚えてた」
思わず顔を上げた。
「え?」
「驚いた?」
「そりゃ驚きますよ」
だって相手は人気アイドルだ。
毎日何百人、何千人もの人と接している。
たった数分話しただけのファンを覚えているなんて思わない。
すると翠は肩をすくめた。
「普通は忘れるよな」
少し笑いながら言う。
「でも、梓さんは結構印象に残ってた」
自分の名前が翠の口から出て、一瞬呼吸が止まる。
「なんでですか?」
気づけば聞いていた。
翠は少し考えるように天井を見上げる。
「なんだろうな」
そして私を見る。
「あの日、俺の目を真っ直ぐ見て話してたじゃん」
私は固まった。
「緊張してるのは分かったけど、それでもちゃんと目を見て話してくれた」
翠は優しく笑う。
「意外とそういう人、少ないんだよ」
胸が熱くなる。
そんなこと考えたこともなかった。
ただ必死だっただけなのに。
「あと」
翠は続けた。
「普通だったら写真とかサインとか、連絡先とか聞くじゃん」
確かにそうかもしれない。
でも私はそんなこと考える余裕もなかった。
好きだと伝えられただけで十分だったから。
「なのに梓さん、『ずっと応援してます』って言ったあと、そのまま帰ろうとしてた」
思わず笑ってしまう。
「逃げました」
「うん、逃げてた」
翠も笑った。
「あれが面白かった」
「面白かったって何ですか」
「いや、なんかさ」
翠は少しだけ真面目な顔になる。
「俺じゃなくて、ちゃんと『天宮翠』を応援してくれてる人なんだなって思った」
その言葉に胸がぎゅっと締め付けられた。
ずっと好きだった人に。
ずっと応援してきた人に。
そんな風に思ってもらえていたなんて。
知らなかった。
翠は静かにグラスを持ち上げる。
「だから今日、扉開けた瞬間びっくりした」
そして少しだけ照れたように笑った。
「まさか、また会えるとは思ってなかったから」

