私だけに見せる、彼の独占欲。

土曜日。

待ち合わせ場所にいた俊を見て、
ちょっと固まる。

あれ、なんか違う。

スーツじゃない。

ラフなシャツに、少し前髪を下ろしてる。

それだけなのに、なんかずるい。

「……どうした?」

「い、いえ……」

見慣れてるはずなのに、全然慣れない。

むしろ、余計に意識する。

並んで歩きながら、俊がふと口を開く。

「いきなり俺の部屋だと緊張するだろ?」

俊がさらっと言う。

「だから、
まずは映画でくっつきながら観たいなって」

……。

な、なんでそんなことを照れずに言えるの。

私はポップコーンを握りしめたまま固まる。

ペアシート。

普通の席より少し広くて、仕切りも低い。

肩と肩が、最初から触れている距離。

暗くなった瞬間、心臓の音が大きくなる。

映画の内容、正直あんまり入ってこない。

俊の体温のほうが気になる。

途中、さりげなく俊の腕が回る。

「……緊張してる?」

耳元で小さく。

「してません」

嘘。

「鼓動うるさい」

低く笑う。

指がそっと絡む。

大きな手。

優しいけど、確かに“男の人”の手。

スクリーンの光が横顔を照らす。

俊はちゃんと映画を見てるふうなのに、
ときどき私を見てるの、分かる。

エンドロール。

明るくなる館内。

名残惜しくて、少し離れがたい。

「楽しかった?」

「はい……」

声が小さい。

「映画?」

意地悪。

「……俊と、が」

一瞬、俊が止まる。

「破壊力」

「え?」

「それ反則」

そう言って、軽く頭を撫でる。

そして。

「こっち」

自然に歩き出す。

駅とは逆方向。

「どこ行くの?」

胸が少し早くなる。

俊は振り返らずに言う。

「俺んち」

足が止まりそうになる。

現実が、急に近づく。

さっきまでの映画みたいな空気が、
少し変わる。

「……本当に?」

「うん」

立ち止まって、私を見る。

真面目な目。

「無理なら言えよ」

その一言で、怖さが少し消える。

選べるって分かるから。

私は少しだけ息を吸う。

「……行きたい」

俊の表情が、ゆっくり柔らぐ。

「ありがとう」

その言い方が優しくて、胸が温かくなる。

歩きながら、俊が小さく言う。

「何もしないとは言わないけど」

どき。

「嫌なことは絶対しない」

その真っ直ぐさが、ずるい。

「ゆうが大事だから」

手は、ちゃんと繋がれている。

映画の余韻。

指の温度。

そして、“俺んち”。

もう、
ドキドキが止まらない。

でもそれは、怖いだけじゃなくて――

ちゃんと、好きだから。