私だけに見せる、彼の独占欲。

午前中の窓口が落ち着いたころ。

私は書類を持って、俊のデスクへ向かった。

まだ少し、顔を見るだけでドキドキする。

「主任、こちらの確認を――」

言いかけて、ふと目が合う。

優しい目。

昨日の帰り道の続きみたいな空気。

気が緩んだ。

「……しゅ――」

はっ。

危ない。

飲み込む。

俊の眉がぴくっと動く。

「今、何て言いかけた?」

低い声。

「い、いえ、主任と!」

周りには同僚。
ここは職場。

俊が立ち上がって、
私の手元の書類を受け取る。

そして小さな声で。

「お前な〜」

次の瞬間。

ツン。

おでこを軽く突かれた。

「いった……」

思わず額を押さえる。

「職場」

俊の目は真面目なのに、口元は笑ってる。

「罰な」

「ば、罰?」

心臓が変な音を立てる。

俊は周囲に聞こえない声で、さらっと言う。

「今週(土)空けといて」

え。

「……え?」

「デートだよ」

何事もなかったみたいに椅子に座る。

私はその場で固まる。

デート。

はっきり言われた。

「主任……」

「だからそれ禁止」

視線だけで止められる。

「俊、だろ?」

顔が一気に熱くなる。

周りの空気はいつも通り。
誰も何も気づいてない。

「なに緊張してんだ」

俊が書類に目を落としたまま言う。

「今週末、ちょっと付き合って」

その言い方が、軽いのに逃げ場がない。

「……どこ行くんですか」

「まだ秘密」

視線だけで微笑む。

「逃げんなよ?」

「に、逃げません」

即答してしまう。

俊が満足そうに小さく頷く。

「よし」

それだけなのに。

その日一日、

私は、落ち着かなかった。

席に戻りながら思う。

主任と呼ぶ緊張。

名前で呼びたい衝動。

突かれたおでこの感触。

そして――

「デートだよ」

その言葉が、何度も頭の中で再生される。

今週(土)。

まだ三日もあるのに。

待ちきれないなんて、

ちょっと悔しい。