私だけに見せる、彼の独占欲。

あの日から、私たちは付き合っている。

まだ誰も知らない。
職場では、これまで通り。

「大丈夫か、新人」

「はい、主任」

でも――

その奥に、秘密がある。

主任の名前は、俊(しゅん)。

心の中で呼ぶだけで、
胸が熱くなる。

好きな人の名前って、
どうしてこんなに特別なんだろう。

ある日の帰り道。

人目を避けて、少し遠回り。

並んで歩く距離は、まだぎこちない。

手をつなぐのも、タイミングを探ってる感じ。

「なあ」

主任がぽつりと言う。

その声のトーンが、職場と違う。

「主任って呼ばれるの、なんか変じゃない?
二人のときは、名前で呼んでほしいな」

どき。

「そ、そうですか?」

「うん」

少し沈黙。

「……ゆうって呼んでいい?」

時間が止まる。

え。

今、何て言った?

「え、あの、はい、もちろん……」

声が裏返る。

主任が小さく笑う。

「そんなに緊張する?」

「しますよ!」

即答。

主任は立ち止まって、私を見る。

その目が、まっすぐで、優しくて。

「ゆう」

――。

たった二文字なのに。

私の名前なのに。

主任の声で言われると、
まるで違うものみたい。

胸の真ん中に、すとんと落ちる。

「……もう一回」

思わず言ってしまう。

主任が少し照れた顔をする。

「贅沢だな」

でも。

「ゆう」

今度は、もっと柔らかく。

息が止まる。

「じゃあさ」

主任が少しだけ悪戯っぽく言う。

「俺のことも、名前で呼んでみて?」

「えっ」

無理。

ハードル高すぎる。

「しゅ、主任……」

「それ、違うでしょ。」

低く笑う。

「俊、でしょ?」

顔が熱い。

心臓がうるさい。

でも、逃げたくない。

小さく息を吸って。

「……俊」

一瞬の沈黙。

俊の表情が、変わる。

「やば」

「な、何がですか」

「破壊力ある」

ぐっと距離が近づく。

でも触れない。

「ゆうに名前で呼ばれるの、想像以上」

その声が少し低くて、甘い。

「二人のときだけでいいから、そう呼んで」

その言い方が、やさしいのに少しだけ特別で。

「職場では無理ですよ」

「分かってる」

でも、と俊は続ける。

「……ちゃんと覚えといて」

その一言が、少しだけずるい。

その約束が、秘密みたいで嬉しい。

俊がそっと手を差し出す。

今度は迷わず、握る。

指と指が絡む。

これは、私の現実。

俊が小さく言う。

「ゆう」

胸の奥が、静かに満ちていく。

ドキドキは、止まらない。

でもきっと――

このドキドキが、恋なんだ。