私だけに見せる、彼の独占欲。

――私、主任のこと、好きになってる。

認めた瞬間から、全部が変わった。

視線も、声も、仕草も。

“たまたま”が、全部特別に見えてしまう。

そして今日。
午後の業務がひと段落して、
休憩室に入ったら――

いた。主任。

コーヒーを淹れている横顔。
心臓が、一気に早くなる。

「……お疲れ」

「お、お疲れさまです」

沈黙。

……今だよ、私。

一緒に帰りませんかって、言えるタイミング。

喉まで出かかる。

でも。もし断られたら?

黙ったまま、紙コップにお湯を注ぐ。
沈黙が、少し長い。

主任がちらっと私を見る。

「元気ないな」

「そ、そんなことないです」

嘘。たぶん、バレてる。

主任はコーヒーを一口飲んで、
少しだけ視線を落とした。

それから、ぽつり。
「……ちょっとお腹空いた」

え?

「帰り、付き合って」

一瞬、意味が追いつかない。
「え……?」

「ラーメンでも食べて帰る」
さらっと言う。

でも、視線は逸らさない。
「嫌?」

その言い方、ずるい。

「い、嫌じゃないです」
反射みたいに答えてしまった。

主任が小さく笑う。
「よかった」

その一言が、やけにやさしい。

時間差で支店を出る。

夕方の空気。
スーツのままなのに、少しだけ軽い。

待ち合わせ場所に、見慣れた後ろ姿。
小さく息を整えて、近づく。

歩き出すと、主任が言った。

「最近さ」

「はい」

「俺の前で、ちょっと距離取ってない?」

ぎく。
「と、取ってないです」

「嘘」
即答。

「前のほうが素直だった」

胸の奥が、きゅっとなる。

「……意識してるからです」
言ってしまった。

あ。終わった。

足が止まりそうになる。

主任が歩幅をゆるめる。

「何を?」低い声。

逃げられない。
「……主任を」

少しの沈黙。
自分の心臓の音だけがうるさい。

主任が、ゆっくり息を吐く。
「……やっと、言ったな」

「え?」

「俺も、ずっと我慢してた」

頭が、真っ白になる。

「部下だし。新人だし。立場あるし」

一歩、近づく。でも、触れない。
「でもさ」

まっすぐな目。
「好きなもんは、仕方ない」

 ………。

「……同じ?」
かすれた声で聞く。

主任は、少しだけ照れたみたいに笑って。

「同じ」それだけ。

それだけなのに、胸がいっぱいになる。

ラーメン屋の暖簾が見えてくる。

主任が、小さく言う。

「ちゃんと順番守るから」

「順番?」

「大人の」

その言い方が、あったかい。

「だから安心して好きになれ」

涙が出そうになる。

やっぱり――

私、主任のこと、好きになってる。

そして、
主任も、同じ。

たぶん、ここから変わる。