屋上での騒がしいお祝いから、3ヶ月。
季節は夏を通り越し、爽やかな秋の風が校庭の木々を揺らしている。
ピコン。
放課後の教室で帰り支度をしていると、ポケットの中のスマホが震えた。
画面に表示されたのは、今ではすっかり見慣れた『綾瀬 蓮』の文字。
『咲良ちゃん、授業終わったー?校門で待ってる』
「……ふふ」
メッセージを読んだだけで、胸の奥にじんわりと温かい灯がともる。
付き合い始めたばかりの頃は、メッセージ一つ送るのにも心臓が破裂しそうだったけれど、今では蓮先輩からの連絡が、咲良にとって一番安心できる日常の欠片になっていた。
「あ、また咲良がスマホ見てニヤついてるー。お熱いことで!」
隣の席から、茉那がいつものようにニヤニヤとからかいの声を上げてくる。
「もう、茉那。ニヤついてなんかいないから!」
「はいはい、そういうことにしてあげる!ほら、金髪王子様が待ってるんだから早く行きなよー!」
茉那にひらひらと手を振られ、咲良は「じゃあね、また明日」と笑って教室を後にした。
早足で向かった校門の前。
少し長めの金髪を秋風に揺らせながら、蓮先輩は壁に背を預けて立っていた。シンプルな制服の着こなしも、相変わらず学校中の女子の視線を集めている。
だけど、咲良の姿を見つけた瞬間、先輩の瞳がパッと輝いた。
「咲良ちゃん!」
駆け寄る咲良の歩幅に合わせて、先輩が数歩歩み寄ってくる。そして、当然のような自然さで、咲良の右手を自分の大きな手で包み込んだ。
「待たせてごめんなさい!」
「全然。咲良ちゃんに会えると思えば、どんな退屈な時間も一瞬だし?」
先輩はニカッと眩しく笑う。付き合ってから何ヶ月経っても、このストレートすぎる溺愛の言葉にはなかなか慣れなくて、咲良の頬がほんのりと赤くなる。
「……蓮先輩は、本当にそういう恥ずかしいことを平気で言いますね」
「えー?本当のことだもん。自分の彼女を可愛いって言って何か悪い?」
悪戯っぽく微笑む先輩に手を引かれながら、二人は夕暮れの通学路を歩き出す。
かつて咲良は、暗い過去から自分を偽り、誰も信じないと心に決めていた。
見た目を変えて、周りを騙して、そうやって自分を守ることで精一杯だった。
だけど、そんな頑なだった心の殻を、蓮先輩は圧倒的な優しさと真っ直ぐな独占欲で、跡形もなく壊してくれたのだ。
『写真がなんだよ!過去がどうだって関係ねぇだろ!目の前にいる咲良ちゃんは、咲良ちゃんだろ!?』
踏切の向こうで先輩が叫んでくれたあの言葉は、今でも咲良の宝物として胸の奥に深く刻まれている。
ふと隣を見ると、蓮先輩も咲良のことを見つめていた。
繋いだ手に、ぎゅっと少しだけ力がこもる。
「ねえ、咲良ちゃん」
「はい?」
「今度の週末さ、またどこか出かけようよ。遊園地でもいいし、咲良ちゃんが行きたいところ、どこでも連れていくから」
「……はい。蓮先輩と一緒なら、私、どこでも嬉しいです」
今度は、はぐらかさずに真っ直ぐ前を向いて、素直な気持ちを言葉にできた。
そんな咲良の返事に、蓮先輩は驚いたように一瞬だけ目を見開いたあと、これ以上ないほど愛おしそうに目を細めて微笑んだ。
「……ほんと、そういう可愛いこと言うの反則。キスしたくなるんだけど?」
「なっ……!ここ外ですよっ!?」
慌てて周囲を見回す咲良を見て、先輩は「はは、冗談」と楽しそうに笑声を上げた。
オレンジ色から深い群青へと溶けていく秋の空。
並んで歩く二人の影は、道の上にぴったりと寄り添いながら、どこまでも長く、どこまでも幸せそうに伸びていた。
ーーーーEnd.



