「ははっ、俺ら有名人?」
照れて膨れる咲良の反応を気にする風もなく、蓮先輩は軽く笑いながら廊下に出ると自然な動作で咲良の小さな手を包み込んだ。
大きくて温かい手のひら。
繋がれた手から伝わる体温に、咲良はそれだけで心臓が激しく脈打つのを感じる。二人は並んで、ゆっくりと屋上への階段を上り始めた。
「昨日、ちゃんと寝られた?」
不意に、先輩がにっこりと微笑みながら気遣うように声をかけてきた。
昨夜、ベッドに入ってからも先輩の告白や手の温もりを思い出して、夜通し枕に顔を埋めてのたうち回っていたなんて、口が裂けても言えない。
「えーと……まあ、寝られたと思います」
動揺を隠そうとするあまり、どうしても声がよそよそしくなってしまう。
「ふはっ、何それ、あやふやじゃん!」
先輩は可笑しそうに吹き出すと、少しだけ声を落として白状するように言った。
「俺はさ、あんまり寝られなかった」
「え……」
まさかの一言に、咲良はドキッとして先輩を見上げた。
(蓮先輩って……付き合う前もかっこよかったけど、なんだか今は、それ以上にキラキラして見える……)
優しさが何倍にも増したような先輩の雰囲気に、咲良の心はそわそわと落ち着かなくなる。
「ずーっと咲良ちゃんのこと考えてたからさ。なんだか遠足の前の日みたいにワクワクしちゃって、全然眠れなかったよ」
階段の踊り場で足を止め、先輩はどこまでも甘く、愛おしそうな目で見つめてくる。
「な……っ」
あまりにも真っ直ぐで甘すぎる言葉に、咲良は完全に言葉を失ってしまった。
(な、何それ……! 付き合い始めた途端、すっごく甘すぎるんだけど!!)
心の中で叫ぶのと同時に、顔が一気に沸騰したかのように真っ赤に染まっていく。
蓮先輩はそんな咲良の様子を愛おしそうに眺めると、「はは、照れてる。可愛い」と声を震わせ、空いている方の手で咲良の頭をポンポンと優しく撫でた。
「……もう!蓮先輩のバカっ!」
(私、この先心臓もつかな…)
これ以上ないほど甘やかされ、恥ずかしさで死にそうになった咲良は、真っ赤な顔を隠すようにうつむきながら小さな声で抗議する。
そんな咲良の抵抗すら楽しそうに受け止めながら、先輩は嬉しそうにまた歩き出した。



