「……っ、好きです。」
必死に振り絞った咲良の告白。
けれど、タイミングを合わせるかのように、轟音を響かせて一瞬で目の前を電車が通り過ぎていった。
あっと驚いたときにはもう遅かった。
電車にかき消された咲良の言葉は、冷酷なまでにガタンゴトンという大きな機械音に溶けて消えてしまった。
「きっと、聞こえなかったよね……」
ぽつりと呟いた言葉すら虚しく響く。
遮断機の向こう側は、何両も続く電車のせいで綾瀬先輩の姿が全く見えない。
一気に恥ずかしさが押し寄せてきて、咲良は我に返った。
勢いに任せて言ってしまったけれど、やっぱり伝えるのはまた今度にしようと思い直す。
(うん、また月曜日になったら、学校で会えるんだし……)
自分にそう言い聞かせながら、咲良はとぼとぼとした足取りで歩き、踏切に背を向けて踵を返した。
その、数歩目だった。
「――っ!」
後ろから、勢いよく身体を抱きしめられた。
息を激しく切らしながら、綾瀬先輩が咲良を後ろからぎゅーっと、壊れそうなほど強く抱きしめていた。
驚きのあまり、咲良は心臓を跳ね上げる。
「先、輩……?」
「咲良ちゃん…っ、今のっ、本当……?」
背中越しに伝わる綾瀬先輩の身体は、ほんのり温かい。
「き、聞こえてたんですか……?」
か細く尋ねる咲良の問いに、先綾瀬輩は腕の力をさらに強める。
「うん…。電車の音なんか関係ないくらい、ちゃんと届いた」
耳元で、弾んだ声が優しく響く。
咲良は先輩の腕の中でゆっくりと振り返り、真っ赤になった顔を上げながら、潤んだ瞳で恋い焦がれた人を見つめた。
「私っ……」
その先の言葉を紡ぐ前に、先輩の端正な顔がこれ以上ないほど愛おしそうに、にこりと微笑む。
「…俺も、咲良ちゃんが大好きだよ」
先輩はそう言って、今度は正面から咲良を胸の中に迎え入れ、強く抱きしめた。
自分の想いが、大好きな人にまっすぐ届いた。
それを確信した瞬間、咲良の胸は温かい幸せでいっぱいになり、視界がじんわりと涙で滲む。
「……っ、私も、好き」
もう迷わない。
咲良はそっと手を伸ばし、先輩の広い背中にしっかりと手を回した。
しばらくの間、二人は夕暮れの街角で静かに抱き合っていた。
やがて、先輩が少しだけ身体を離したかと思うと、咲良の視界がふわりと揺れる。
ちゅっ。
「えっ…!?」
不意に降ってきた、おでこへの柔らかな感触。咲良は驚きに目を丸くし、さらに顔を赤らめた。
すると先輩は、少しだけ意地悪な笑みを唇の端に浮かべて覗き込んでくる。
「あれ?口にしてほしかった?」
「そ、そんなこと言ってませんっ!」
図星を突かれたようで、咲良は慌てて顔を真っ赤にしながら視線を激しく逸らした。
そんな咲良の反応がたまらなく可愛かったのだろう。
先輩は満足そうに目を細めると、今度は耳元に顔を近づけて、甘く低く囁いた。
「続きはまた、今度」
「ひゃっ……!」
鼓膜をくすぐる吐息に驚いて、咲良は飛び退くようにして先輩から距離を置いた。
当の先輩はというと、してやったりといった様子で「その顔見たら充ー分っ」と悪戯っぽく笑っている。
恥ずかしくて、愛おしくて、胸がはち切れそうだった。
世界が嫉妬するほど綺麗な夕陽が、新しく恋人同士になった二人をどこまでも優しく、暖かく照らし続けていた。



