ORANGE×BOY

「綾瀬先輩っ!」

混雑する駅のホームで、咲良は声を張り上げながら先輩のもとへと駆け寄った。

弾んだ息のまま目の前で足を止めると、綾瀬先輩はすぐに気づいて振り返り、「あ、咲良ちゃん!」と満面の笑みを浮かべた。

「ごめんなさい、待たせてしまって……」

申し訳なさから、咲良は小さくなって謝る。
けれど、先輩は怒るどころか、とろけるような優しい表情を浮かべた。

「全然!咲良ちゃんのこと考えてたから、俺は何時間でも平気~!」

不意打ちだった。
そんな甘いセリフを、先輩はなんでもないことのように口にする。
ドクン、と心臓が大きな音を立て、咲良はまたしてもドキドキとさせられてしまった。

「そ、そうですか……」

まともに顔が見られなくなり、咲良は恥ずかしそうに視線を逸らす。
すると、視界がふわりと揺れて、頭の上に大きな温もりが降ってきた。

「あー、信じてないでしょ?」

「う、嘘じゃないです」と言い訳する間もなく、綾瀬先輩は咲良の頭を優しくポンポンと撫でる。

子ども扱いされているような、でも特別に扱われているようなその手のひらに、咲良はまた心臓の鼓動を跳ね上げた。
赤くなる顔を隠すように、咲良は少しだけ唇を尖らせる。

「……綾瀬先輩、最近なんだかやけに優しくなりましたよね」

体育祭の前よりも、ずっと距離が近い。

少しだけ拗ねたような咲良の言葉に、綾瀬先輩はさらに表情を緩ませ、ニコニコしながらとんでもない言葉を返してきた。

「んー?俺は好きな子にはめちゃくちゃ優しいけどー?」

「なっ……っ!?」

心臓が爆発するかと思った。

(今日は、凄く綾瀬先輩に振り回されてる気がする!)

確信犯的な先輩の態度に、咲良は心の中で悶々としながら、すっかり真っ赤になって固まってしまう。

(私今日、心臓もたないかもっ…!)

そんな咲良の様子を楽しそうに見つめていた綾瀬先輩は、「じゃあ、行こっか」と短く言うと、すっと大きな右手を咲良の前に差し出してきた。

綺麗な長い指。
制服のときには気づかなかった、男の子らしい手のひら。

差し出された手の意味を考えてしまい、咲良の頭はさらにパニックになる。

だけど、ここで拒む理由なんてどこにもなかった。

恥ずかしさで指先が震えそうになるのを必死に堪えながら、

咲良は「……はい」と小さく呟いた。
そして、差し出された先輩の手を、そっと握り返す。
繋いだ手のひらから、驚くほどの熱がじんわりと伝わってきた。