ORANGE×BOY


あの体育祭の熱狂が嘘のように、いつもの穏やかな日常が戻ってきた。

だけど、咲良の日常は、確実にあの日を境に確実に変わり始めていた。

――ピコン。

スマホが震えるたび、跳ね上がる心臓。
画面に映る『綾瀬 蓮』の文字には、いまだに慣れない。

最初は文字を打つ指が震えて、送信ボタンを押すまでに何十分もかかっていた。

それでも最近は、朝の「おはよう」と夜の「おやすみなさい」だけは、咲良から必ず送るのが二人の秘密のルーティンになりつつあった。

そんな、浮足立つような昼休み。

「ちょっとちょっと!!咲良ったら綾瀬先輩とLINE交換したって本当!?」

教室の机に突っ伏していた咲良に、親友の茉那がものすごい勢いで突進してきた。
目をらんらんと輝かせ、完全に面白がっている。

「何々?超イー感じじゃん!」
「え!?な、なんで知ってるのよ!これから言おうと思ってたのに……」

心臓が口から飛び出るかと思った。
完全に隠し通せていたと思っていた咲良は、分かりやすく唇を尖らせてふてくされる。
すると、茉那はニヤニヤと意地の悪い笑みを深めた。

「あ、図星だったんだ?!毎日、スマホとにらめっこしてニヤついてる咲良を見たら、一目瞭然だよーん」

「(しまった……。そんなに顔に出てたのか!)」

自分の脇の甘さに頭を抱えた、その瞬間だった。

「――LINEだけじゃないよ?デートもするもんねー?」

背後から降ってきた、鼓膜を甘く揺らす、聞き慣れた優しくて弾んだボイス。
気がつけば、咲良の肩に大きな温かい手がぽんと置かれていた。
振り返るまでもない。
茉那と咲良の間に、すっと割り込んできたのは――。

「…っ、綾瀬先輩!?」

不意打ちに心臓がドキッと跳ねる。

(ちょ、肩に手がぁあ…!)

顔が一気に沸騰していくのが分かった。

当の先輩はというと、それはそれは上機嫌な様子で、まるでお尻に犬のしっぽが生えてパタパタと振っているのが見えるかのようだ。
学校中の女子の憧れの的ではあるが、咲良の前ではこういう人懐っこい犬系キャラで可愛いことを平気でする人だ。

「えー!!咲良がついに綾瀬先輩とデートぉぉ!!?きゃー!お熱いことで!」

茉那の黄色い悲鳴が、さらに教室中に響き渡る。

他の女子生徒も、「ついに、伝説のカップル誕生か」と騒ぎだす。

男子生徒は、「ついに、小鳥遊さんが、金髪男に絆されたー!」とざわざわしている。

咲良の波乱の日常は、まだまだ始まったばかりみたいだ。