ガラリ、と音を立てて開けた保健室は、放課後の独特な静けさに包まれていた。
白いカーテンが夕方の柔らかな風に揺れている。
「あいにく、先生は不在みたいだねー」
前を歩いていた綾瀬先輩が、振り返ってのんきに笑う。
綾瀬先輩に手を引かれ、連れてこられた保健室。
二人きりという状況に、咲良の心臓はさっきからうるさいほど音を立てていた。
綾瀬先輩は迷いのない足取りで薬品棚へ向かうと、そこから湿布と包帯を手際よく取り出した。
「慣れてるんですね」
「ん? あー、一年の頃よく怪我してここに来てたからねー」
思わず口にすると、先輩は「咲良ちゃん、そこ座ってて」とにっこり微笑み、咲良を丸椅子に促す。
「さすが不良ですねぇ」
少しからかうように言うと、先輩は「まぁーそれほどでも?」と、困ったように頭を掻いて苦笑いした。
噂通りの怖い人なら、きっとこんな顔はしない。
先輩はさしての真向かいにある椅子を引き、腰を下ろした。
そっと触れられた右手。
大きな手のひらの温かさに、体温が跳ね上がる。
先輩は驚くほど優しい手つきで、痛む手首に湿布を貼り、綺麗な手際で包帯を巻き付けていく。
「包帯なんて、大げさじゃないですか?」
気恥ずかしさを隠したくて尋ねると、先輩は咲良の目を見つめた。
「いーの。怪我してんだから」
いつになく真剣な眼差しと、包み込むような優しさに胸が締め付けられる。
「本当に、ありがとうございます……」
視線を落とし、少し照れながらお礼を言うと、先輩は「ん。どーいたしまして」と、今度は少年みたいにニカッと笑った。
「…っ!」
その笑顔があまりに眩しくて、咲良の心臓がまた跳ねる。
すると、先輩は包帯を巻き終えた咲良の手をそっと離し、悪戯っぽく目を細めた。
「じゃ、お礼といっちゃなんだけどさぁー……俺と連絡先交換しない?それと、咲良ちゃんとデートしたい!」
「いくらなんでも、注文多くないですか?」
突然の直球すぎる提案に、咲良は目を丸くした。
連絡先だけじゃなく、デートまでなんて色々反応に困る。
「えー、お願い!一回だけでいいからさ!ね?」
普段のクールな噂が嘘みたいに、先輩は子供のように粘ってくる。
「あの、綾瀬先輩……」
いつものように、「無理です」と突っぱねようとした。
だけど、言葉が喉の奥で消えていく。
(でも……ここでまた断ったら、私はきっと前に進めないんだよね……)
過去の苦い記憶や、臆病な自分が頭をよぎる。
先輩のまっすぐな瞳を見ていると、ここで逃げ出してはいけない気がした。
少しだけ、勇気を出してもいいだろうか…。
「咲良ちゃん…?ごめん、そんなに嫌だっ……」
咲良の沈黙を拒絶だと勘違いしたのか、先輩の顔からみるみる青ざめていく。
その焦った表情を見て、咲良の背中がぽんと押された。
「いいですよ」
先輩の言葉を遮るように、私は言った。
「…っ、一回だけですからね」
これ以上顔を見つめられたら、心臓が破裂しそうだった。
咲良はぷいっと視線を逸らす。
自分の耳元が、夕焼けよりも赤く熱くなっているのが分かった。
「…え?」
綾瀬先輩の声が裏返る。
目を信じられないほど大きく見開いたまま、完全に固まっていた。
一秒、二秒、三秒と間が空いていく。
静まり返った保健室に、特大の叫び声が響き渡った。
「ええええーーー!?マジでっ!?」
「ちょっと、綾瀬先輩!声が大きいですっ」
あまりの音量に、咲良は今度こそ完全に赤面して、綾瀬先輩の口を両手で塞ぎたくなるのだった。
白いカーテンが夕方の柔らかな風に揺れている。
「あいにく、先生は不在みたいだねー」
前を歩いていた綾瀬先輩が、振り返ってのんきに笑う。
綾瀬先輩に手を引かれ、連れてこられた保健室。
二人きりという状況に、咲良の心臓はさっきからうるさいほど音を立てていた。
綾瀬先輩は迷いのない足取りで薬品棚へ向かうと、そこから湿布と包帯を手際よく取り出した。
「慣れてるんですね」
「ん? あー、一年の頃よく怪我してここに来てたからねー」
思わず口にすると、先輩は「咲良ちゃん、そこ座ってて」とにっこり微笑み、咲良を丸椅子に促す。
「さすが不良ですねぇ」
少しからかうように言うと、先輩は「まぁーそれほどでも?」と、困ったように頭を掻いて苦笑いした。
噂通りの怖い人なら、きっとこんな顔はしない。
先輩はさしての真向かいにある椅子を引き、腰を下ろした。
そっと触れられた右手。
大きな手のひらの温かさに、体温が跳ね上がる。
先輩は驚くほど優しい手つきで、痛む手首に湿布を貼り、綺麗な手際で包帯を巻き付けていく。
「包帯なんて、大げさじゃないですか?」
気恥ずかしさを隠したくて尋ねると、先輩は咲良の目を見つめた。
「いーの。怪我してんだから」
いつになく真剣な眼差しと、包み込むような優しさに胸が締め付けられる。
「本当に、ありがとうございます……」
視線を落とし、少し照れながらお礼を言うと、先輩は「ん。どーいたしまして」と、今度は少年みたいにニカッと笑った。
「…っ!」
その笑顔があまりに眩しくて、咲良の心臓がまた跳ねる。
すると、先輩は包帯を巻き終えた咲良の手をそっと離し、悪戯っぽく目を細めた。
「じゃ、お礼といっちゃなんだけどさぁー……俺と連絡先交換しない?それと、咲良ちゃんとデートしたい!」
「いくらなんでも、注文多くないですか?」
突然の直球すぎる提案に、咲良は目を丸くした。
連絡先だけじゃなく、デートまでなんて色々反応に困る。
「えー、お願い!一回だけでいいからさ!ね?」
普段のクールな噂が嘘みたいに、先輩は子供のように粘ってくる。
「あの、綾瀬先輩……」
いつものように、「無理です」と突っぱねようとした。
だけど、言葉が喉の奥で消えていく。
(でも……ここでまた断ったら、私はきっと前に進めないんだよね……)
過去の苦い記憶や、臆病な自分が頭をよぎる。
先輩のまっすぐな瞳を見ていると、ここで逃げ出してはいけない気がした。
少しだけ、勇気を出してもいいだろうか…。
「咲良ちゃん…?ごめん、そんなに嫌だっ……」
咲良の沈黙を拒絶だと勘違いしたのか、先輩の顔からみるみる青ざめていく。
その焦った表情を見て、咲良の背中がぽんと押された。
「いいですよ」
先輩の言葉を遮るように、私は言った。
「…っ、一回だけですからね」
これ以上顔を見つめられたら、心臓が破裂しそうだった。
咲良はぷいっと視線を逸らす。
自分の耳元が、夕焼けよりも赤く熱くなっているのが分かった。
「…え?」
綾瀬先輩の声が裏返る。
目を信じられないほど大きく見開いたまま、完全に固まっていた。
一秒、二秒、三秒と間が空いていく。
静まり返った保健室に、特大の叫び声が響き渡った。
「ええええーーー!?マジでっ!?」
「ちょっと、綾瀬先輩!声が大きいですっ」
あまりの音量に、咲良は今度こそ完全に赤面して、綾瀬先輩の口を両手で塞ぎたくなるのだった。



