ORANGE×BOY


暗闇が迫る倉庫の中で、咲良は膝を抱えたまま、繋がらないスマホの画面を見つめていた。
不安と細い呼吸の音だけが、静まり返った空間に響く。

「あ……っ、綾瀬先輩……」

ふと頭に浮かんだのは、いつもまとわりつくように自分の後を追ってきた、あの先輩の笑顔だった。
けれど、すぐに咲良は小さくため息をついた。

「……って、私、綾瀬先輩の連絡先知らないんじゃん……」

いつも真っ直ぐに向けられる彼からのアプローチを、照れ隠しでことごとくあしらってきたツケが、こんなところで裏目に出るとは思わなかった。
冷たい床の上で、咲良の心にじわりと後悔が広がる。

「こんなことになるなら……もうちょっと、素直になればよかったのかな……」

暗闇の中でぽつりと言葉をこぼすと、胸の奥のちくちくとした痛みが、さっきよりも少しだけ強くなった。





その頃、グラウンドでは用事を済ませた茉那が、大急ぎで元の場所へと戻ってきていた。

「お待たせ咲良ー!……ってあれ?いない?」

あたりを見回しても、そこに咲良の姿はなかった。コーンも綺麗になくなっている。

「あれー?咲良、もう教室に戻っちゃったのかなー?」

不思議に思いながら、茉那は校舎へと足を向けた。
しかし、静まり返った教室に戻ってみても、やはり咲良の姿は見当たらない。
自分の机に近づいた茉那は、机の上に置きっぱなしにしていたスマホの画面が、激しく明滅していることに気がついた。

「うそ、咲良からこんなに着信が入ってる……!?」

画面に並ぶ大量の不在着信の通知に、茉那の心臓がドクリと嫌な音を立てる。
ただ事ではない気配を察し、大慌てで折り返しの通話ボタンを押した。

数回のコールの後、繋がった受話口から聞こえてきたのは、今にも泣き出しそうな咲良の震える声だった。

『――茉那っ!?よかった、電話繋がった……!』

「咲良!?ごめんスマホ忘れてて……って、今どこにいるの!?」

『あのね、奥の古い倉庫にコーンを片付けにきたんだけど、扉が開かなくなっちゃって……閉じ込められてるの……っ!』

「ええっ!? 嘘でしょ!?」

受話口の向こうの咲良の怯えた様子に、茉那は血の気が引くのを感じた。

「今すぐ行くから!待ってて!」と叫ぶように言い残し、茉那はスマホを握りしめたまま教室を飛び出した。

廊下を猛スピードで駆け抜け、息を切らせて昇降口までたどり着いた、その時だった。

「あ、茉那ちゃんじゃん!咲良ちゃん見なかった?探してんだけど、見つからなくてさー」

運良く、向こうから歩いてきた綾瀬先輩と出くわした。

体育祭の黒のウィッグをしたままの先輩は、いつもより少し真面目なスタイルだが、学ランの衣装少し着崩して、いつものテンションでニコニコしている。

茉那は藁にもすがる思いで、先輩に駆け寄った。

「綾瀬先輩――っ!!」

「うおっ、どうした?そんなに慌てて」

「実は……咲良が、倉庫に閉じ込められちゃったみたいなんです……っ!」

「――え?」

その瞬間、綾瀬先輩の顔からいつものお気楽な表情が綺麗に消え失せた。
鋭く目を見開き、茉那の肩を掴む。

「咲良ちゃんが!?それ、どこの倉庫?」

「運動場の、ずっと奥にある木造の古い倉庫です!あそこ、普段はあんまり人が行かなくて……!」

場所を聞き終えるや否や、綾瀬先輩は弾かれたようにスニーカーの踵を踏み込んだ。

「わかった!茉那ちゃんは、教室で待ってて!俺が助けにいくから!」

「で、でも……っ!」

心配で付いていこうとする茉那を安心させるように、先輩は振り返り、夕暮れの光の中でニカッと眩しく笑ってみせた。

「大丈夫、俺に任せて!必ず、助けだすからっ」

その一言だけを強く残して、綾瀬先輩は風のように、咲良のいる暗い倉庫へと向かって走り出していった。