そして次の日。
昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた直後、一年生の教室の入り口が、突如として黄色い歓声に包まれた。
「キャー! ちょっと、あれって……!」
「嘘、嘘でしょ!? 2年の綾瀬先輩じゃない!?」
色めき立つ女子生徒たちの視線の先に立つのは、端正な顔立ちを崩してひらひらと手を振る、学校中の憧れの存在だった。
その瞬間、咲良は心の中で深くため息をついた。
次の日も、そしてその次の日も、彼女の平穏な日常の境界線は、綾瀬蓮という名の台風によって容赦なく踏み荒らされることになったのだ。
「咲良ちゃん!昼メシ食お」
購買のパンを片手に、さも当然のような顔をして我が物顔で教室に現れる綾瀬先輩に、咲良は毎回、氷点下に近い視線と短い拒絶を返した。
もちろん、答えは一択、お断りだ。
関わりたくないし、関わるべきではないと心底思っている。
けれど、そんな咲良の頑なな態度を、特等席からエンターテイメントとして消費している存在がいた。
「ちょっと咲良、どういうこと!? 何なにー!? なんであの綾瀬先輩が毎日のようにあんたに付きまとってんの!?」
机を並べる親友の茉那が、これ以上ないほど目を輝かせて詰め寄ってくる。
何度も無下に断り続ける咲良。
周囲のクラスメイトたちの視線も、徐々に「あの憧れの先輩を冷たくあしらう不届き者」を見るような、あるいは「あざとい計算高さを隠した悪女」を警戒するようなものへと変わりつつあった。
針のむしろとはこのことだ。
変な噂が立って、自分の高校生活の平穏指数がゼロになるのだけは勘弁してほしいと咲良は思った。
「っていうか、綾瀬先輩、私にも声かけてほしー!!」
そんな喧騒のド真ん中で、綾瀬先輩は「え~! 冷たい~。せっかく一年の教室まで会いに来たのに〜」と、ちっとも傷ついていなさそうな軽い調子で笑っている。
咲良じとりと彼の綺麗な顔を睨みつけ、ピシャリと言い放った。
「迷惑です。お引き取りください」
涼しい顔で言い切る咲良。
その横で、ついに限界を迎えた茉那が「えええ! 咲良、なんてこと言うのよ!?」と、ドキドキとはしゃぎながら会話に割り込んできた。
「あの、あの!学校一の有名人の綾瀬先輩だよ!?」
「ん? あ、ありがと〜。咲良ちゃんの友達の茉那ちゃんだよね?よろしくね!」
蓮先輩が茉那に向かって人当たりの良い笑顔を向けると、茉那の目が一瞬でピンク色のハートマークに切り替わった。
「はいっ!! 咲良の親友の茉那です!! 実は私、綾瀬先輩のこと隠れ推しなんです! よろしくお願いします、先輩!!」
「ちょっと茉那、変な冗談やめてよ」
一瞬で寝返った親友に、咲良は声を冷たく尖らせてあしらう。
すると、蓮先輩はそれを見て、顎に手を当てて楽しそうに目を細めた。
「へぇー。友達にもそんなクールなんだー?咲良ちゃんって、もしかして俗にいう『ツンデレ』ってやつ? 面白〜」
「っ、ツ、ツンデレとかじゃありません!!」
からかうような彼の言葉に、咲良は自分の顔が、耳の先まで一気に真っ赤になっていくのを感じた。
なんだか悔しい。
なんでこの人は、こんなに簡単に人の心のペースを乱していくのだろう。
これ以上ここにいたら、恥ずかしさで爆発してしまう。
「私、トイレに行くので!先輩は早く自分の教室に帰ってください!」
咲良は勢いよく椅子を蹴るようにして立ち上がると、教科書を机に叩きつけ、蓮先輩の横をすり抜けて、足早に教室を去っていった。
背後から、彼の「あ、また逃げたー!」という楽しそうな笑い声が聞こえてきて、咲良の足取りはさらに早くなる。
昼の光が差し込む廊下を走りながら、咲良はバクバクと五月蝿い胸を押さえていた。
大嫌いなヤンキーのはずなのに、彼の笑顔を思い出すたびに、胸の奥がどうしても熱くなってしまう。
その、自分の歪んだ固定観念が少しずつ溶けていくような感覚が、咲良は悔しくて、そしてほんの少しだけ、怖かった。
昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた直後、一年生の教室の入り口が、突如として黄色い歓声に包まれた。
「キャー! ちょっと、あれって……!」
「嘘、嘘でしょ!? 2年の綾瀬先輩じゃない!?」
色めき立つ女子生徒たちの視線の先に立つのは、端正な顔立ちを崩してひらひらと手を振る、学校中の憧れの存在だった。
その瞬間、咲良は心の中で深くため息をついた。
次の日も、そしてその次の日も、彼女の平穏な日常の境界線は、綾瀬蓮という名の台風によって容赦なく踏み荒らされることになったのだ。
「咲良ちゃん!昼メシ食お」
購買のパンを片手に、さも当然のような顔をして我が物顔で教室に現れる綾瀬先輩に、咲良は毎回、氷点下に近い視線と短い拒絶を返した。
もちろん、答えは一択、お断りだ。
関わりたくないし、関わるべきではないと心底思っている。
けれど、そんな咲良の頑なな態度を、特等席からエンターテイメントとして消費している存在がいた。
「ちょっと咲良、どういうこと!? 何なにー!? なんであの綾瀬先輩が毎日のようにあんたに付きまとってんの!?」
机を並べる親友の茉那が、これ以上ないほど目を輝かせて詰め寄ってくる。
何度も無下に断り続ける咲良。
周囲のクラスメイトたちの視線も、徐々に「あの憧れの先輩を冷たくあしらう不届き者」を見るような、あるいは「あざとい計算高さを隠した悪女」を警戒するようなものへと変わりつつあった。
針のむしろとはこのことだ。
変な噂が立って、自分の高校生活の平穏指数がゼロになるのだけは勘弁してほしいと咲良は思った。
「っていうか、綾瀬先輩、私にも声かけてほしー!!」
そんな喧騒のド真ん中で、綾瀬先輩は「え~! 冷たい~。せっかく一年の教室まで会いに来たのに〜」と、ちっとも傷ついていなさそうな軽い調子で笑っている。
咲良じとりと彼の綺麗な顔を睨みつけ、ピシャリと言い放った。
「迷惑です。お引き取りください」
涼しい顔で言い切る咲良。
その横で、ついに限界を迎えた茉那が「えええ! 咲良、なんてこと言うのよ!?」と、ドキドキとはしゃぎながら会話に割り込んできた。
「あの、あの!学校一の有名人の綾瀬先輩だよ!?」
「ん? あ、ありがと〜。咲良ちゃんの友達の茉那ちゃんだよね?よろしくね!」
蓮先輩が茉那に向かって人当たりの良い笑顔を向けると、茉那の目が一瞬でピンク色のハートマークに切り替わった。
「はいっ!! 咲良の親友の茉那です!! 実は私、綾瀬先輩のこと隠れ推しなんです! よろしくお願いします、先輩!!」
「ちょっと茉那、変な冗談やめてよ」
一瞬で寝返った親友に、咲良は声を冷たく尖らせてあしらう。
すると、蓮先輩はそれを見て、顎に手を当てて楽しそうに目を細めた。
「へぇー。友達にもそんなクールなんだー?咲良ちゃんって、もしかして俗にいう『ツンデレ』ってやつ? 面白〜」
「っ、ツ、ツンデレとかじゃありません!!」
からかうような彼の言葉に、咲良は自分の顔が、耳の先まで一気に真っ赤になっていくのを感じた。
なんだか悔しい。
なんでこの人は、こんなに簡単に人の心のペースを乱していくのだろう。
これ以上ここにいたら、恥ずかしさで爆発してしまう。
「私、トイレに行くので!先輩は早く自分の教室に帰ってください!」
咲良は勢いよく椅子を蹴るようにして立ち上がると、教科書を机に叩きつけ、蓮先輩の横をすり抜けて、足早に教室を去っていった。
背後から、彼の「あ、また逃げたー!」という楽しそうな笑い声が聞こえてきて、咲良の足取りはさらに早くなる。
昼の光が差し込む廊下を走りながら、咲良はバクバクと五月蝿い胸を押さえていた。
大嫌いなヤンキーのはずなのに、彼の笑顔を思い出すたびに、胸の奥がどうしても熱くなってしまう。
その、自分の歪んだ固定観念が少しずつ溶けていくような感覚が、咲良は悔しくて、そしてほんの少しだけ、怖かった。



