明日マネージャーやめます!

 「なに?なんか嫌なシーンあったっけ」


 「いや、えっと…」


 急にモジモジしだす橘。

 なんだ、この反応は。

 気になった私はバックから台本を取り出すとパラパラとページをめくり、該当のシーンを見つけた。


 【横浜の観覧車内で熱くキスを交わす2人】


 はは~ん。なるほど、キスシーンが嫌なワケだな。


 「仕事でしょ。割り切らないと」


 「でも…マネージャーさんも来るんですよね?」

 「もちろん。マネージャーだもの」

 「てことは撮影現場も見るじゃないですか」

 「もちろん。マネージャーだもの」

 「それが嫌なんです!俺は!」

 声を荒らげて怒る橘。

 …全く。子供じゃないんだから。

 私は橘の胸元に人差し指を突きつけると睨みつけて言った。


 「あのね。あなたはもう社会人なのよ。嫌です、やりませんなんて通らないの。売れてまだ数年で、この人気がいつまで続くか分からないのに仕事の選り好みなんてしてられません」

 橘は悔しそうに顔を歪ませるとそっぽを向いた。

 私はため息をつきながら、橘の荷物を手に持つ。

 「だいたい、たかがキスシーンなんだからチャチャッと終わらせればいいのよ。キスシーンの撮影なんて初めてじゃないんだから」

 「…たかが?」

 橘は眉間に皺を寄せると大きな手で私の肩をつかみ壁に押付けた。

 強く押し付けられた訳では無いので痛くはないが…、橘との距離が一気に縮まり緊張感が漂う。

 普段は温厚な橘だが、こうして責めよられると、さすがのでかい図体だけあって迫力がある。

 まさに、猫とネズミ状態だ。



 私はゴクリ唾を飲み込むと、橘の迫力に負けじと声を張った。