台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―


紫苑の隣で不自然にひよりの椅子がガタンと動く。

私は少しも動じずに、ノートに視線を向けたまま数式を指でなぞる。


「ええ?何にもしてないよぉ。
ね、ひよりちゃん」

「あっ……はい……」
「喧嘩ッ!?瑠奈お前、ひよりのこと泣かせてないだろーな!?」


早とちりで荒げた陸の言葉に、ひよりがペン先を突き立てる。
書きかけのxが、ぐにゃりと変な方向に曲がった。


「しし、してませんしてませんっ。
泣くなんて……っというか、喧嘩だって、そもそも……!」

何かを確信した紫苑の目が、今度はしっかりと私を見据える。

「ホントだろうな!?ひより!」

「ほんとですよぅっ。
だから陸くん、この話はもうおしまいですっ」


テーブルに張り付いて顔を覗かせ合う2人の頭の上で、にこっと愛想笑いをしてみる。

王子の皮を被った紫苑は、当たり前だけど甘い顔なんかしてくれない。


こんなんじゃ逃げられないって、わかってるけどさ……。
心の中で額に手を当てて、“最悪だ”と項垂れた。


ガチャリ。

カオスになり始めた空気を断ち切るように、リビングのドアが開く。
打ち合わせを終えた4人が、スタッフ、そしてカメラマンと一緒に帰ってきた。