「……悪い」
「うん、いいよ。あとはやっておくね」
爽真から食器を受け取った美玲が、わかっているとばかりに頷く。
紫苑に続いて爽真。
明らかに疑うべき場面なんだけど、センサーを働かせる余裕が今の私にはなかった。
爽真が出ていく気配がして、バタンとドアが閉まる音をテレビを観たまま見送る。
日曜日の朝の旅番組が終わりかけた時、左隣に誰かが座った。
「はい、これ」
咄嗟に焦点が合わないほど目の前に、みかんゼリーが飛び込んでくる。
驚いてゼリーが飛んできた方を見ると、余裕顔の紫苑がそこに座っていた。
「これなら食べられるんじゃない?と思って」
「誰が作ったものでもないし」と小声が続く。
「……」
呆気。心配をかけていたと、素直に受け取っていいんだろうか?
「ありがと、紫苑くん……」
「いえいえ」
表面上は、恋する悪女と誰にでも優しい王子の会話。
オレンジ色の蓋を剥がすと、甘い酸味のある柑橘の香りが目の前に漂った。



