「あ……」
追いかけなくちゃ。
そう思って瓶を置いて下ろした手を、誰にもバレないように紫苑に繋ぎ止められる。
“仕事中だよ”
振り返った時に見た蜂蜜色の冷めた目は、そんなことを言っていた。
「待って!」
私が怯んだ一瞬の間に、美玲が閉まるドアに向かって駆け出す。
思考停止した頭に、遠ざかる足音とドアが閉まる音が空虚に響いた。
――――
――……
「爽真くん、待って……!」
玄関も飛び出して、呼んでも呼んでも止まらない爽真のことを、美玲は必死に追いかける。
声に混じるは波の音。
ゆっくり押し寄せては引いていく潮騒が、いつのまにかすぐそこにあった。
まだ照り返しの強い砂浜。
空はほんの少し青の強さを弱めて、夜へと助走をつけ始める。
砂に足を取られながら、美玲がようやく爽真の手を掴んだ。
「っ、」
瞬間、パッと振り払われる。
咄嗟に振り向いた爽真は、美玲が驚いて傷ついた顔をしているのに気づいて初めて足を止めた。
「……悪い」
「ううん……」
誰もいない、浜辺の真ん中。
気まずい沈黙を、美玲の悲しそうな声が破る。
「爽真くんは、瑠奈ちゃんが好きなの……?」



