「ま。そのうちわかるんだろうけどね」
くるっと壁に背を向けた紫苑の明るい声で、この場に意識を引き戻される。
「というか、暑くない?一旦家に飲み物とりに行こうよ。
みんなの分運びたいから、ついてきてよ。香月さん」
「……っな、紫苑くん?その呼び方……!」
「大丈夫大丈夫。カメラも誰も、聞いてないから。
ほら早く、香月さん」
悪女の仮面を押さえながら焦っている私を尻目に、紫苑は涼しい顔をして玄関の方に歩き出す。
「呼び方で人を召喚するの、やめてくれる!?」
「あ。気付いた?素になるまで呼び続けようと思ってたの」
誰にも気取られないように、“瑠奈”の顔で戯れ付くフリをしながら小声で紫苑に抗議する。
「意地悪しないで!紫苑くんの思い通りにはならないもんっ」
「いや、ちょっとなってたよ」
「……なってないもん!」
ムッと頬を膨らませる私と楽しそうに笑う紫苑が、爽真と美玲のすぐそばを通る。
時間をかけて平常心を取り戻していた爽真の顔が、また暗く固まってその手が止まる。
そんな爽真を見つめる美玲の表情が、意思を固めたように引き締まった。



