「……っ、」
限界ギリギリの胸に、トドメの一撃。
きゅーっと心臓が絞り上げられて、切なく悲鳴を上げ始めた。
「別に、どこにも行かないし。
というか、どこにも行けないし」
バクバクと心音が振るわす鼓膜に、拗ねた甘い声が響く。
そしたらもう、たまらなくなって。
空っぽの手が感情の突き動くままに持ち上がって、さらりと流れる夜色の髪に柔らかく着地した。
「っ、……何」
「……。なんだろうね」
ほんと、なんだろう。
自分でも、うまく説明できないの。
「勝手な奴」
「……ちょっとは自覚してる」
撫でるたびに、優しく香る石鹸の匂い。
それがすぐ近くにあることに、どうしようもなく安堵して。
この感情に名前をつけることは、
できないのか、しないのか。
ただ、この人だけはどうしても手放せない。
そんな身勝手な欲だけが、心の中で確定した。



