――……
ご案内したのは、ど真ん中の席。周りには誰もいない。
みんな端っこに座っている。
「あ、香月さん。こっちの肘掛け使っていいよ」
並んで座ると、左隣の紫苑が2人の間にある肘掛けを譲ってくる。
「え?じゃあ、ありがと……」
「いえいえ」
早く始まらないかなとキリキリする。
気を紛らわせるためにまだ何も写していないスクリーンを見ていると、左隣から観察してるかのような視線を感じた。
「なに?」
やんのか、と臨戦態勢でジト目を向ける。
「いや、今日の香月さんは特に可愛いなって思って」
「は?」
ガクンと肩の力が抜ける。
歯の浮くようなことを、真面目な顔で言うんだもん。
「普段の感じより好きかも。俺」
「……。それはどーもありがと!」
もう恥ずかしくなってきて、ぷいっと反対方向を向く。
クスクスと、小さく笑う声が聞こえた。
(なんというか……くそスマート)
こういうデート慣れてるんだろなって雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「寒くない?」
「寒いは寒い。けど、寒さ込みのヤマセ作品なとこあるから」
「あー。わかる」
だからできるだけそっけなくして、蜂蜜ミルクみたいな甘さをできるだけ薄めて。
それでも楽しそうに笑われるから、なんか非常に、ひじょーに調子が狂っている。



