――……
館内は少しカビっぽいにおいはするけど、冷房が効いていて少し寒いくらい快適。
ドマイナーな映画しかやっていないから、夏休み中でも人の入りはものすごく少ない。
……の、割にチケット窓口は2つ。
今まで並んだ試しがないから一つに絞ればいいのにと毎回思うけど。まぁ、施設の都合的なものがあるのだろう。
今日も全く並ばずに、ベルトパーテーションの間を颯爽と歩いて窓口に辿り着く。
「9:40上映の廃墟の悪魔のチケット一枚――……」
「すいません、次上映の廃墟の悪魔一人分……」
隣の窓口に立っていた人と声が被った。
しかも同じ映画。上映時間。
しかも。
「あれ、瑠奈ちゃん?」
目深に被った帽子の鍔の下から、丸くなった蜂蜜色の瞳が覗く。
「……しっ……。……紫苑、くん?」
知ってるやつだった――――……
「チケット代、1000円になりま――」
「すいません!キャンセルで!!」
差し出されたキャッシュトレイを突き返す勢いで窓口のアクリル板の中へ返す。
「じゃ、こっちは2人分に変更で。お願いしまーす」
2000円払ってからこっちを見る紫苑が、ふわりと意地悪に微笑んでくる。
ひく、と口端が引き攣った。
「こちら、チケットになります」
「ありがとうございますー」
2人分のチケットを得意げに掲げてくる。
“逃げられないでしょ”って圧がかかった。
し、……っ
紫苑んんんんんんん



