「大丈夫。じゃ、美玲も来たし出発しようか」
三木さんはサッサと後部座席のスライドドアを開けて、運転席側に行ってしまう。
「ごめんね、爽真くん。遅くなって……」
「……いや、」
申し訳なさそうに眉尻を垂らした美玲に、爽真は感情を押し隠すように、短く頷く。
ふと、爽真から視線を外した美玲が、呆気に取られている私と無機質に立っている御手洗のことを見つけた。
「あ。瑠奈ちゃん……また明日ね」
美玲はほんの少し気まずそうに小さく微笑んで、それから御手洗にも会釈をして車に乗り込んでいく。
爽真も、何も言わないまましばらく私を見つめた後、そっちに体の向きを変えた。
(そうだ。そういえば、美玲と爽真は同じ事務所なんだった)
「爽真くん」
後部座席の床面に足をかけた爽真の名前を呼んだのは、咄嗟だった。
爽真の足がそこで止まる。
夜色の目が、もう一度私の方を向く。
ドキンと胸が跳ねて、それが甘いのに、苦しくて。
言いたい気持ちが上手に出てこない。
「あ……、またね」
にこりと、浮かべた笑顔は嘘の顔。
爽真が少しだけ寂しそうな顔になった気がした。
「……ん、」
返事はたったそれだけ。
美玲が待つ、爽真が乗り込んだ車のドアは、無機質な機械音を立てて閉まっていった。



