口角が上がっているかを確認するように、頬に力を込める。
動画配信アプリを落として、スマホをポケットにしまい込んだ。
「……面白かったねっ。そしたらそろそろ、寝よっかぁ」
――今が悪女の瑠奈でよかった。
明るい演技で誤魔化せる。
「……ん、」
ゆっくりと立ち上がった爽真には、さっきまでの余裕がない。
ただ、私もそれに気づく余裕がない。
「じゃ、“バイバイ”。瑠奈ちゃん」
「……うんっ、おやすみなさぁい」
“契約は守る”
そう含んだ言い方をする紫苑の顔は、見たかったものが見られた満足そうな表情で。
男子フロアの階段を登っていく2人の姿を見送る。
爽真が振り向くことはない。
でも、すぐに背を向けることができなくて。
「――……」
恋してる。私が、爽真に。
傍目にはそう見えたらしい。
遠ざかる爽真の背中に、また胸がズキズキと痛くなる。
“そう見えただけ”で自分の心を決めつけて、まだ胸を痛めるには早い。
心に頭を追いつかせて、ちゃんと考えなくちゃ。
ぐしゃりと自分の髪をかき乱して、何とか気持ちを切り替える。
ようやく背を向けて階段を登りはじめた時――
暗い顔をした爽真が振り向く。
言いたいのに、言えないことがある――そんな表情で私の後ろ姿を見つめていた。



