「あれ、今日は“紫苑”って呼ばないの?
じゃあ、今は俺に恋する“瑠奈ちゃん”だね」
「そー。恋してドキドキして、緊張してるの。
だからこんな感じ」
「意識するとツンツンするんだ?可愛いね」
「……っ、」
言葉に詰まったのを、余裕っぽい笑みで誤魔化す。
感情的にも物理的にも、一歩でも引いたら負ける。
緊迫感に胸が強く脈を打って、こくりと唾を飲んだ喉が動いた。
紫苑の視線がそれに気付く。
一瞬の間をおいて、静かに一歩退いた。
「安心してよ、変なことなんてしないから」
警戒を強める私を、安心させるかのような柔らかい口調。
片眉を下げて苦笑するその顔は、本気で困っているように見えた。
「……瑠奈、そんなこと“一ミリも”思ってないよ?」
「そう言われるとしたくなるな」
「……!!」
真顔で一歩足をこっちに向けるから、思わず心臓が跳ねる。
頬にもほんのちょっとだけ熱がこもった。
「あ。赤くなったね。俺の勝ち」
得意そうな笑顔に腹が立つ。
前言撤回!少しも困ってないわ、こんなやつ!



