「へぇ……あれ、そんなに大事なんだ」
“あれ”が、あの時間そのものを指しているのか。
それとも、その時間にいる爽真を指しているのか。
怖いほど静かな紫苑の目は、私の反応を待つように片時も逸れることがない。
僅かな揺らぎさえ、隙になってしまいそうな緊張感。
だから、変に誤魔化すなんて悪手はとらない。
「うん。大事。
だから誰にも壊してほしくない」
自分でも驚くほど冷静に、まっすぐな本音が出てきた。
紫苑の表情が数秒固まる。
繕おうとした口元が繕いきれず、ポケットに入れた指先に力が入った。
「……妬けるなぁ。そんなにハッキリ言っちゃうんだ」
落ちた呟きは、ほんの少し苛立った、余裕が崩れかけている声色。
(よし、効いてる)
でも、きっと素直に引いてはくれない。
案の定、紫苑は私と距離を詰めてくる。
体の横に置いた手が、少し揺れれば触れ合う距離。
いつも紫苑に絡んでいる時に香る、清涼感のあるシトラスの香りの奥に、甘く重いバニラのような香りを感じ取った。



