桜がもう散るというのに、校舎だけは春を飾っていた。

羚はその中を急ぐことなく、歩いていた。

真新しい制服はまだ固くて、体に馴染んでいない。

無理やり癖をつけたみたいに、アイロンの跡が第二ボタンのあたりに残っている。


「ねえ、あの子」


誰かの声がする。

聞こえないふりは、もう朝飯前だ。

というか、もう“ふり”でもない。耳に入ってすらこない。

田舎の高校って、こういうところが面倒だ。

知らない顔が一日で“知っている顔”になる。

田舎だからって、全員が地味だと思うな。

でも、それすらどうでもよかった。

どこでも、多分同じだから。