時田君と私の秘密の契約〜毎週金曜日の秘め事〜

 位置的に私は時田くんの隣になってしまった。ただ隣にいると言うだけなのに、何となくそわそわして落ち着かなくなってしまう…。

 距離が近すぎて時田くんの手と、私の手が触れてしまい、少しぶつかってしまい、ただそれだけなのに私は指先から背筋まで、ぞくっと反応してしまった。

 その瞬間、時田くんが誰にも気付かれないように私の手を握り、私の手に自分の手を絡めた。

 私を挟むように、隣には加原くんがいて、周りには他の人もいて、誰かに気付かれないかとヒヤヒヤしてしまう。
 
 手を振り解きたくてもキツく固く握られた手は中々解けない…。嘘だ…私は解きたくないのだ。20階から1階に到着するまでの間、私達はずっと手を握り合っていた。

 ポーンと到着音が鳴り、エレベーターが一階に到着すると、みんなが動き出すと同時に時田くんが私の手を解いた…。

 時田くんは何事もなかったように行ってしまった。時田くんが去った後、私は繋がれていた左手が気になってしまい、時田くんと繋いでいた左手を見つめて立ち止まってしまった。

 「向野さん、手がどうかしたんですか⁇」

 エレベーターから降りて先に歩いていた加原君が心配したように私に話しかける。

 「ううん…なんでもない…」

 自分の気持ちを誤魔化すように心配する加原くんに何事もなかったかのように取り繕った。

 加原くんと食べたキッチンカーのランチは、ケバブサンドとスープの少し辛いけど美味しいキッチンカーだった。

 美味しそうに食べる加原くんは本当に犬系で、益々飼っていたペットのチロに似ているなとクスクス笑ってしまった。

 「向野さん、僕の顔に何かついてますか⁇何かいつも僕向野さんに笑われてる気がするんですけど⁇」

 加原くんが言うのも無理はない…。いつも加原くんとランチすると私は笑ってばかりなのだ…。

 「ごめんごめん。何か加原くんて家で昔飼ってた犬にそっくりで。つい見てると笑っちゃうの」

 発した言葉は加原くんにとっては失礼極まりない言葉だろう。いくら加原くんが昔飼っていたペットのチロに似ていても、自分が飼っていた犬に似ていると言われても、いい気分になるはずがない。私は言ってしまった言葉を少し反省した。

 「それって、僕は向野さんの中で人間以下って事じゃないですか〜。それって酷くありませんか⁇」

 茶化すように言う加原くんは嫌味のない良い子だと思う。「ごめんごめん。可愛いって意味だよ。加原くんみたいなペットが欲しいなって感じ」と笑って言える加原くんとの関係は、複雑で曖昧な時田くんとの関係より何も裏がなくて良いなと思う。時田くんとも変な感情を抱かず、加原くんみたいに男女を意識しない何も思わない感情を抱けたらいいのにと、今更ながら思ってしまい、想いを巡らせていた…。

 「まあ今はまだ、ペットでいいですけどね。」

 加原くんがポツリと言った言葉は私の耳には届かなかった…。自分の気持ちにも、相手の気持ちにも、昔から鈍くて疎い私には、私の周りで起きている色の付いた感情など、何も気が付かないのだった。