煉瓦坂の少し奇妙なX'mas

 とうとう朝が来た。来てしまった。
 今日は24日で、年末年始、このシーズンの大きな山場の1つ。今日明日を乗り越えれば、大晦日までは少しのインターバルだ。
「よし、やるぞ」
 そう唱えて布団を蹴り上げる。というかそうでもしないととやってられない。昨日は久しぶりに1杯だけでノアプテからタクシー呼んで帰った。ていうかクリスマスが近づくにつれて行き帰りに不穏な気配が増えていく、気がするし。
 顔を洗って髪を整え、高台のマンションから辻切駅を眺めれば、聳え立つツインタワーの中央付近で直線的に空を横切る雲の形が、どこか十字架じみて見えた。
 辻切の空。そう思ってバッグの中に転がしっぱなしのスノードームを久しぶりに引っ張り出せば、目の前のツインタワーの後ろを横切る雲のすじと、スノードームのツインタワーを埋める雪の高さが同じくらいに見えて、首を傾げる。
「偶然だよね? なんか、今の天気感」
 そんな風に現実逃避しつつ足はいつのまにか店に着き、開店前の店の前で並ぶ列をスルーして、見ないようにしていた予定表を片目で眺めて乾いた笑いが漏れる。
「まじかよ、俺死にそう」
「あ、公理さん、ご愁傷さまです」
「それ朝に合う挨拶じゃない」
 仕事が終わるのはそこまでは遅くない。深夜パーティはしご組をいれても午前1時には終わる。けど数が尋常じゃない。カラーリングは色だけみてあとは誰かにまかせられるけど、それを置いても俺がやらなきゃ始まらない俺指名のスタイリングは開店から途切れなく続いてる。昼飯を食う時間なんて当然あるはずがない。
「ブラックだなぁ。お店終わったころにはハサミが指と同化してるか指がハサミになってそうだ」
「シザーハンズみたいっすね」
「好きなんだけどさ、ジョニー・デップ。もう無だ、全てが無。大体なんで断らないんだよ」
「断れる客は全部断ってますよ。断れない客を厳選して、断れない断れた客は俺とか他の人が担当します。だいぶん減らしたんですよ」
「だよねぇ」
 営業前から気分はすでにげんなりで、最後のプレゼントに放り入れたのは栄養剤セット。追加に無料でもらった奴を1本飲み干す。
 ああ、もう観念するしかないな。毎年のことだし。でも年々増えてる気もするし。しがらみというのは歩いている間は減ったりしないものだ。そうしてバックヤードを出て全員とハイタッチして、閉店まで生きていることを神に祈って、店のボードをOpenにひっくり返した。