煉瓦坂の少し奇妙なX'mas

「環、助けて! クリスマスに呪われた!」
 寝起きの智樹がクウェスに飛び込んできた時、既に10時半は過ぎていた。俺はいつもの席で仕事をしていたのに、気持ちいい朝はすっかりぶち壊されたわけだ。イラつく。
「俺にクリスマスを持ち込むな」
 ただでさえ無視しようと思ってるのに。
「クリスマス? でも助けてやるって言ったじゃないか!」
 ああ、またかよ。最近失言が多い。しかしこれはもともと失言の問題でもないだろう。
「……ああ、確かに言ったな。どうせお前は面倒事を俺のところに持って来る。極限に悪化してから持ってこられるよりは軽いうちに持ってこられた方がまだましだ」
 悪化……既にしてる気がする。先日結界を張り直しに行った時にはまだ例年通りだった気はする。
 ここはカフェだ。無言でQRを押し付ければ、やがて店員がコーヒーを持ってきて、智樹はプハリと息を吐く。
「それで何があった。結界は張ってあるはずなんだが」
「結界……? えっと、夜中に残ってたら讃美歌みたいな声が聞こえる気がするんだ」
 讃美歌……。頭が痛くなってきた。どうしてこう関わりになりたくないのに次から次へとやってくるんだ。
 いや、ただの音楽だ、あれは。俺にとっては洋楽と同じだ。正月に流れる春の海と同じ季節ソング。
「店の中だろ? いいじゃないか讃美歌くらい。クリスマスなんだからBGMで。きっとみんなはしゃいでるんだよ」
「え、大丈夫な奴? お化け怖い」
 ああ、もう頭が痛い。
 智樹は幽霊が見えるくせに幽霊を過剰に怖がる。夜になるとお化けが出て怖いと毎晩酔っぱらってるくらいだ。だからお化けが出るところにはいたくない。だからあの店には悪意のあるものや智樹が招かないものが入らないように結界を貼り、善良なそのへんの精霊っぽいのを投げ込んでいた。
 ……増えた? そういえばあいつら気になることを言ってたな。
「そもそも何か変わった事をしたのか?」
「変わった事? まだしてない」
 胃がキリリと音を出すのを感じる。
「まだ、とは?」
「えっといつも通りツリーをリースして、その、今年はクリスマスプレゼントの交換をやろうと思ったんだけどさ、えっと、その」
 顛末を聞くうちに、俺は頭を抱えていた。自由にプレゼントを入れていい、だと。こいつは馬鹿か。ストーカーだの勘女だの、今まで何度トラブルになったかすっかり忘れたんだろうか。
「えっと、あの」
「自分で招き寄せる馬鹿があるか。せっかくの守りがちっとも役に立たないじゃないか」
「え?」
 最も腹立たしいのは智樹自身が有象無象を呼び寄せているのに、全く自覚がないことだ。酷い時は気づかず地雷原に踏み入れる。
「見せろ」
「何を?」
「店だ! これからいくぞ! 糞! 俺はクリスマスに近づきたくないんだ!」
 こうなったら根本的に解決するしかないじゃないか。