煉瓦坂の少し奇妙なX'mas

「今日も面倒事か」
 目の前の友人は鬱陶しそうに、椅子を引いた俺をちらりと見つめた。
 腰まで伸びた真っすぐなつやつやした黒髪、その前髪の間から見える切れ長っぽく同じく真っ黒な瞳はすぐに目の前のタブレットに落ち、極端に色白な細い指がカタカタと接続したキーボードの上におどる。俺への興味はすっかり失ったようだ。
「酷いなぁ(たまき)。今日は特に用はないよ。ていうか12月に入ったら忙しくなっちゃうから今のうちに顔見とこうと思って。忘年会、クリスマス、それから年末年始、成人式……」
 そう指折り数えて、酷く面倒くさい気分になってきた。俺は美容師で、それなりに売れていて、つまり年末年始は年度末始に比肩して忙しい時期なわけで、下手をすれば毎日午前様だ。
「うへぇ」
智樹(ともき)、俺は仕事中だ。失せろ」
 いつも通り素気無い言葉に肩をすくめて見つめても最早無視を決め込んだようで、俺がQRで珈琲をお代わりしようと見つめてようと、気にするそぶりもみせない。
 このクウェスというカフェは実に居心地がいい。丁度良く聞こえるような聞こえないようなBGM、他人と丁度いい距離感が保たれた席配置。だから環が日がな一日ここで仕事してる気分もわかる。オカルトライターしてて神霊記事とか書いたり。でもそろそろ退屈になって来た。
「じゃあまたね」
「ああ智樹。待て」
 珍しく引き留められて振り返れば、雪まみれのスノードームが差し出された。所々に四角が突き出てるけど半分くらい白く埋もれてなんだかわからない。
「これを持ってけ。それから変なことがあったら早めに教えろ」
「変なことって?」
 智樹がスノードームをひっくり返せば、よく見る光景が現れる。中央の丘に高い建物、その近くを通る線路と精巧な街並み。
「あれ? これ辻切(つじき)区?」
「ああ。この街だ。今朝届いたんだよ」
 環の嫌そうな顔に、嫌な予感がよぎる。
「危ない?」
「うん? 一応結界は貼っておいた。異常があったら教えろ。時期が時期だから特別に助けてやる。お前はどうせ困ってるやつを連れてくるんだろ」
「別に好き好んでってわけじゃ……」
 そう呟きつつ、いろんなものに絡まれる自覚はあった。おっかなびっくり指先でつまんで、少し悩んでクラッチバックに仕舞う。
「ほんと嫌な季節だよなクリスマスは。色んな情念が絡まってろくでもないことが起こる」
「リア充爆発しろってやつ?」
 この時はあんまり、環の舌打ちについて深く考えていなかった。