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「さっきの子、ちょっと可愛かったな」
明るい声で笑いながら、男子学生が話を切り出す。
「なぁ、市川くん。今度紹介してよ」
その瞬間。
銀也の目から、すっと笑みが消えた。
「……やめとき」
低い声だった。
男子学生はきょとんと目を瞬かせる。
けれど次の瞬間には、銀也はいつもの調子で笑っていた。
「あの子、よう泣く子ぉやから。めんどくさいで」
「お、おう……」
男子学生は、なぜかそれ以上何も言えなかった。
春の風が、銀也の黒髪を静かに揺らした。
横断歩道を渡り切ったところで、銀也はふいに足を止め、一度だけ振り返る。
「市川先輩?」
細身の男子学生が不思議そうに振り返る。
人混みの向こう。
銀也は目を細めた。
泣きそうな顔で自分を見つめていた瞳が、まだ目に焼き付いて離れない。
「……ほんま、変わったなぁ」
ぼそっと呟く。
細身の男子学生は銀也の声が聞き取れず、「……え?」と怪訝そうに眉を寄せた。
銀也は微笑み、何事もなかったみたいに、また歩き出した。
