フラワーリング

数回目の打ち合わせの日。

私はまたチャペル・ド・ルミエールを訪れていた。

橘さんとは仕事の合間に少しだけ話す関係になっていた。

それでも変わらないことが一つだけある。

私は今日も、気付けば橘さんの指を見ていた。

「……久遠さん」

突然名前を呼ばれ、はっと顔を上げる。

「はい?」

橘さんは少しだけ困ったように笑った。

「前から思ってたんですけど」

「……?」

「久遠さんって、人の指、よく見ますよね」

「えっ」

心臓が止まったかと思った。

気付かれてた。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて頭を下げる。

「その……変ですよね」

「いえ」

橘さんは首を横に振る。

「最初は花を見てるのかと思ってたんです」

くすっと笑う。

「でも違いました」

「……」

もう穴があったら入りたい。

「昔からなんです」

諦めたように、小さく笑う。

「人の指を見る癖があって」

「職業柄っていうのもあるんですけど……」

そこまで話すと、橘さんは少し考えてから口を開いた。

「そうだったんですね」

笑われると思った。

変わってるって言われると思った。

「でも」

橘さんは穏やかに笑う。

「嫌じゃないですよ」

「え……?」

「そんなに真剣に見られたこと、今までなかったので」

その言葉に、胸が少しだけ熱くなった。

やっぱり。

この人は優しい。