私も最終準備に入ろうと思い、まずはお手洗いへ向かう。
廊下に出ると、案内板を指でなぞる男性がいた。
行き先を探しているのだろうか。
すらりと伸びた指先が、案内板の文字をゆっくり追っている。
何を探しているのかも分からないのに、
私の視線はその手元に引き寄せられていた。
しばらくその指先を目で追っていた私は、はっと我に返った。
何をしているんだろう。
慌てて視線を外し、声をかける。
「何かお困りですか?」
振り返った拍子に、長い指が案内板から離れた。
「チャペルがどこかなーと」
困ったように笑うその人に、私は思わず呟いた。
「迷子だ」
しまった。
声に出ていた。
「あ……」
慌てて取り繕うように笑う。
「えっと、案内しましょうか?」
「助かります。」
「あちらです」
私が指差すと、
「ありがとうございます」
彼は荷台を押しながら歩き出した。
私も自然とその隣を歩く。
昔から、人の指を見る癖がある。
職業柄というのもあるのだろう。
アクセサリーは、その人の指先があってこそ完成するものだから。
長さや骨ばり方。
指先の動きや、何気ない仕草まで。
気付けば、つい目で追ってしまう。
自分でも少し変わった癖だと思う。
けれど――。
今日出会ったその人の指は、今まで見てきたどの指とも少し違っていた。

