一夜のあと、君に溺れる

「桜子さんに恋人がいるのはわかっています。でも僕も桜子さんのことを諦めきれないので、アプローチさせてください」

「そんなことを言われても……」

「僕の人となりを知ってからでも、遅くはないでしょう?」

「ずいぶんと自信があるんですね」

「ええ、自信がなければこんな風にアプローチしてませんよ」

「……」

「あはは、ずいぶんと気に入られているじゃないか、桜子」

困っているのをよそに、父は豪快に笑い、高崎先生は爽やかな笑みを浮かべる。断りたいのに断らせてもらえない、もどかしい時間だけがただ過ぎ去っていった。

しっかりデザートまで堪能したけれど、やっぱりどこか美味しくない。好きでもない人との食事は、こんなにも味が変わるものなんだと、身を持って実感している。

……悪い人じゃないんだけど。

ただ、それだけで。私が今誰ともお付き合いしていなかったら、もしかして高崎先生の好意を受け入れていたのかもしれないけれど、今は少しもそんな気持ちにならない。

高崎先生には申し訳ないけれど、この先も気持ちがなびくなんてことはありえないだろう。父にも高崎先生のことは諦めてもらわなくてはいけないし、早急に大ちゃんのことを紹介したい。私の好きな人は大ちゃんなんだって、納得してもらわないと。

「はあ……」

小さく息が漏れた。
どうしたら諦めてくれるだろう。
いっそのこと、高崎先生が変な人だったらよかったのに。借金まみれだとか、女たらしだとか。

「桜子さん、どうかされましたか?」

「……いえ」

「仕事終わりでしたから疲れていますよね。長くお引き止めして申し訳ありません。また次の機会に、ゆっくりとお話しましょうか」

次の機会とは、と思いつつ、その場を収めるために小さく「はい」と返事をした。高崎先生はニッコリと優しげな笑みを浮かべる。

煮え切らない思いに、チクリと胸が痛んだ。