一夜のあと、君に溺れる

ホテルの高層階にあるレストランの入口では、高崎先生がすでに待っていた。

「高崎くん、待たせてすまなかったね」

「いえ、私も今着いたところです。ああ、桜子さん。私服のあなたもとても美しいですね」

「……ありがとうございます」

社交辞令として挨拶を交わして、中に入る。高崎先生も白衣とは違いスーツを着て、素敵な佇まいだ。印象は悪くない。悪くないどころか、とても好感度は高いのだろう。

私にも父にも気をかけてくれ、常に優しい微笑みを浮かべている。ひとたび仕事の話になれば、これからの医療の在り方や病院の経営方針まで、どんなことでも有意義に父と意見を交わしている。立派な方だと思わざるを得ない。

父と高崎先生の会話を耳に入れながら、私は黙々と目の前の料理に手をつけていた。本日のオードブルの盛り合わせからスープ、真鯛のポワレ。どれもおしゃれで繊細な盛り付け。舌触りの良い上品なお味。

非の打ち所がない完璧な料理なのに、どこか味気ない気がする。大ちゃんと食べたサイゼリヤのミラノ風ドリアの方が、断然美味しかった。

「すみません、桜子さん。ついつい理事長と話が盛り上がってしまいました」

「あ、いえ。お構いなく」

「ここの料理はどれも美味しいですね」

「ええ。ここのレストランはデザートも美味しいんですよ」

「そうなんですね。実は甘い物に目がないので、楽しみだなぁ。桜子さんは甘い物好きですか?」

「好きですね」

「そうですか、それなら今度おすすめのスイーツ店へご案内しますよ」

「えっ? いえ、それは……」

お断りしたいのに、高崎先生のペースに乗せられそうになる。困って父を見るも「それはいい提案だな」と高崎先生に同意して話にならない。

「あ、あの、高崎先生。お誘いはありがたいのですが、私には恋人がいるんです。だから――」

「ええ、わかっていますよ」

悪びれることもなくニッコリと微笑まれ、ぐっと言葉に詰まる。