一夜のあと、君に溺れる

「桜子さんが警戒するのも無理はない。でもまずは、お互いを知るために、一緒に食事をしていただけませんか?」

ニコッと高崎先生が爽やかな笑みを向けた。父もそうだと頷いている。まるで断っている私が悪いみたいな雰囲気に、息が詰まりそうになる。

「でも――」

「桜子、知りもしないことを断るなんてお前らしくもない。知らなきゃ何も始まらないだろう」

「そうだけど、でも私には――」

「ああ、ちょっと今から高崎くんと仕事の話があるからな、あとで落ち合おう」

「お父さん!」

抗議の声を上げたけれど、高崎先生が私の背中に手を当てて扉の方へ促した。出て行けということらしい。

「大丈夫、ただ食事をしましょうと言っているだけです。気楽に楽しめばいいんですよ。何も心配しないでください」

「……お見合いはしませんから」

「あはは、そんな強情なところも僕は好きですね」

耳元で囁かれ、ドキッと心臓が嫌な音を立てる。そのまま私だけ理事長室から出され、無情にも扉は閉まってしまった。

ぐるぐると渦巻くのは、大ちゃんのことと御堂家のこと。私は大ちゃんが好きで一緒にいたいと思っているけど、でも御堂家から私に期待されていることも大きいのだと思い知らされた。

父は神木坂総合病院を守っていきたい。そのために、後継ぎとなる優秀な医師を私と結婚させようとしている。もちろん今までは、そうすることが御堂家にとって良い事なのだと疑いもしていなかった。だから父の提案するお見合いに、頑張って応えようとしていた。

でも今は違う。
私は大ちゃんが好きなのだ。大ちゃんは医師ではない。でも、そんな職業なんて関係なく、私は大ちゃんが好き。これからの人生を一緒に生きていきたいなと思える人は、大ちゃんしかいない。

ずっと父の引いたレールの上を歩いてきた。それに何も疑問を持っていなかった。だけどここにきて、自分の人生を誰かに決められたくないのだと、ようやく気付いた。