一夜のあと、君に溺れる

午後になると新たに入職された医師、高崎先生が現れた。清潔で爽やかに見える短髪に、切れ長の目。スラリとした体躯には白衣がよく似合う。

普段年配の医師としか接していないからか、久しぶりの若い先生に、スタッフステーションがわっと色めき立った。清水さんも、「やだ、ほんとにイケメンじゃん」と呟いている。

確かにイケメンで優しそうだなとぼんやり眺めていると、ぱっと目が合いニコッと微笑まれた。どうしたらいいかわからなくて、とりあえず軽くペコリとお辞儀をする。

「君が御堂桜子さん?」

「はい、そうですが」

「聞いていた通り、美しい方ですね」

「……ありがとうございます?」

よくわからずお礼を言うと、高崎先生は私の両手を包み込むようにぎゅっと握った。瞬間、スタッフステーションに黄色い悲鳴がわき起こる。

「……あの?」

「やはり僕の婚約者に相応しい」

「は?」

意味がわからず固まる私をよそに、スタッフステーションの面々は大騒ぎになった。

ちょっと待って。どういうことなの。
婚約者?
私が?
は???????

「あの、すみませんが、何のお話でしょうか」

「まだ聞いていませんでしたか。あー、ちょっと先走っちゃったかな。理事長には許可を得ています」

「父に?」

「これからよろしくお願いしますね、桜子さん」

高崎先生はこれでもかというキラキラしたオーラをまといながら、ニッコリと微笑んだ。

私は1ミリも笑えない。
一体何の冗談なの。

「すごいじゃない、御堂さん」

「いえ、私には恋人がいますし」

「うそ、まさかの三角関係?!」

清水さんが興奮しながら、「キャー!」と私の背をバンバン叩いた。他の看護師たちも、「やばい、何これ。ドラマかなんか?」などとざわついている。

どうやら私だけが、この状況に置いてきぼりにされているようだ。