一夜のあと、君に溺れる

大ちゃんとのお付き合いも順調そのもので、お互いの両親に挨拶をするために日程を決めているところだ。大ちゃんの方はすぐにおいでと言われたので、次の休みにお邪魔することになっている。

問題は我が家だ。母にはそれとなく伝えてみたものの、父にはまだ伝えられないでいる。父とは仕事の時間のすれ違いが多く、実家暮らしだというのに最近姿さえも見ていない。

「うーん、困ったな」

「何が困った?」

看護師長の清水さんが覗き込むように聞いてきたので、慌てて我に返る。ダメだ、今は仕事中。集中集中。

「いえ、何でもないです」

「そう? 困ったり迷ったりしたときはちゃんと手を挙げるのよ。一人でなんとかしようと思わないでね」

「はい、ありがとうございます。そういえば今日から来るんでしたっけ、新しい先生」

「午後から顔出すみたいよ。イケメンだといいわよね」

「ふふっ、そうですね」

清水さんは楽しそうにケタケタ笑った。赴任するのは三十代の医師らしい。私の働く消化器内科の医師は年配の方ばかりだから、「若者が来る」なんてちょっとした騒ぎになっている。

かくいう私も楽しみにしている。どんな人だろうか。仕事がしやすくなるといいのだけど。

「イケメン御曹司を期待してるわ」

「どこの小説の世界ですか」

「最近ハマってるの。イケメン御曹司が地味な女子を溺愛するっていう王道なやつ」

「わ、面白そう」

「でしょ。面白いのよー。御堂さんにもまた貸すわね」

清水さんはグッと親指を突き立てた。清水さんは仕事に厳しいけれど、プライベートでは恋愛小説や恋愛ドラマが大好きだ。私とは年が離れているけれど、同じく恋愛ものが好きな私は、清水さんと話が合う。だから、よくそういった小説を貸してくれるのだ。

ちなみに、清水さんから借りた小説でワンナイトも覚えた。イケメン御曹司ものも、ぜひ読んでみたいものだ。