一夜のあと、君に溺れる

「ありがとね、さーちゃん」

そっと髪を撫でる。長くて綺麗なサラサラの髪。

「……ん、大ちゃん?」

「おはよ」

「おはよう」

むくりと起き上がったさーちゃんは、眠そうに小さく欠伸をする。シーツから覗く白い肌が艶めかしく、とても綺麗だ。

「……仕事なのよね?」

「そうだね」

「行きたくなくなっちゃう」

「そうだね、俺もそう思う」

腰を引き寄せて頬に唇を寄せる。視線が交わると、さーちゃんは照れたようにニコッと笑った。

行きたくないと言いつつも、お互いに支度を始める。基本的に、真面目なんだよな。一緒にいたいからって、仕事をサボるなんてことはしない。同じ考え方をするというのは、付き合う上で大事なことかなと思う。そういうところも、さーちゃんに惹かれているひとつなんだろう。

早朝から開いているレストランで軽く朝食をとってから、さーちゃんを自宅まで送り届けた。身支度を整えてから、すぐに出勤するらしい。俺はさーちゃんよりは出勤時間が遅いから、世間の出勤時間帯の渋滞に巻き込まれながらゆっくりと自宅に戻る。

「大ちゃん、朝帰りだねぇ」

「……ばーちゃん、おはよう」

「いいねぇ、若くてねぇ」

「ばーちゃん、また言いふらすつもりだろ」

「いんや、言うわけない。あっはっはっ!」

祖母の言葉は信用ならない。でもまあ、いいか。言いふらされても何もやましいことはないんだし。むしろ、さーちゃんが彼女だと言いふらしたいくらいに気分は高揚している。

「ばーちゃん、俺さ、彼女できた。今度紹介する」

「大ちゃんの名前は、ばーちゃんが付けたでね。大きな福が来るように。いい名前だねぇ」

「そうだね。とんでもなく大きな福をいただいてますよ」

「ばーちゃんに感謝せぇ」

「なんでやねん。……でもまあ、いつもありがとう」

「素直な大ちゃんは、できた孫だね」

おひょひょ……と変な笑いをしながら、祖母は仏壇に手を合わせた。俺もその横で手を合わせる。

線香の香りが静かに漂う中、いろいろな事への感謝の気持ちが胸に満ちてきて、なんだか世界が少し優しくなった気がした。