一夜のあと、君に溺れる

そんな大ちゃんへの気持ちを抱えつつ、なぜか今、実花さんとカフェで対面している。陽気なBGMが流れているのに、私たちの空気は重苦しい。

……どうしてこうなったの。

仕事帰りに寄った本屋で、バッタリ出会ってしまった。私は実花さんの顔を覚えていたけれど、まさか実花さんも私の顔を覚えていたなんて思わなかった。ちょっと話をしてもいいかしらと言われて、断り切れずに今に至る。

ミルクと砂糖をたっぷり入れた、甘いコーヒーを飲む可愛らしい実花さん。ひとつひとつの仕草を見ても、女性らしいというか、雰囲気が柔らかくてドキッとしてしまう。私は何も入れず、ブラックコーヒーで可愛げがない。

沈黙が重い。とりあえずコーヒーを飲んでやり過ごす。カチャンとカップがソーサーに置かれた。

「単刀直入に言います。大ちゃんと別れてください」

「……」

「私、大ちゃんとやり直したいんです」

「そんなことを言われても……」

「まだ大ちゃんと付き合ったばかりですよね? 今なら別れても傷は浅く済みますよ。私は大ちゃんと三年付き合ったんです。だから私の方が大ちゃんのことよく知ってます」

へぇ……。大ちゃんと実花さん、三年もお付き合いしていたんだ。知りたくもなかった情報が、次から次へと耳へ飛び込んでくる。何だかやるせない。

それに、私はまだ大ちゃんとお付き合いしていないから、別れてと言われても困る。だけどバカ正直にそれを伝えることも憚られた。

「ねえ、そんなに必死になるくらいなら、どうして別れたの? 実花さんから別れを告げたのよね?」

「はい。でも私、勘違いしていたんです」

「勘違い?」

「大ちゃんの働く料亭が歴史ある老舗で、大ちゃんが経営者って知らなかったんです。だから将来不安になって別れただけです。大ちゃんのことを嫌いになったわけじゃありません」