一夜のあと、君に溺れる

「心配しなくてもいいと思うよ。確かに大ちゃんと実花ちゃんは付き合っていたけど、ずいぶん前に別れてるし、よりを戻すとか有り得ないよ」

「そうですか?」

「そうそう。だって、今の大ちゃんは桜子さんにぞっこんでしょ」

「えっ?!」

「うちの店……あー、料亭の方ね。噂になってるもん。大ちゃんに新しい彼女ができたって。それって桜子さんのことでしょ?」

「ええーっ!」

「最近の大ちゃん、楽しそうだもん」

杏子さんの言葉に、私は何も言えなかった。まだ彼女じゃないけど、でも私の知らないところでそんな噂が立っているなんて。

「実花ちゃんはよりを戻したいのかもしれないけど、大ちゃんはそうじゃないでしょ? そんな素振りしてた?」

「いいえ。よりを戻す気はないって言ってました」

「でしょー。だったら大ちゃんのこと信じてあげてよ。あの子、真面目で嘘がつけないタイプなの」

明るく笑い飛ばす杏子さんも、嘘がつけないタイプ。

本当はそんなこと言われなくてもわかっている。大ちゃんの気持ちが嘘じゃないってこと。だけど私に自信がなくて、まわりの人がよく見えてしまうんだ。私はお見合いしかしてこなかったから、恋愛の仕方がわからなくて、大ちゃんと結婚の話までいった実花さんのことを羨ましく思っていて……。

あれ? 羨ましい?

「……私、もしかして」

「うん、なに? どうしたの?」

「大ちゃんのこと、すっごく好きなのかも……」

体の奥の方からぶわっと気持ちが湧き上がってくる。大ちゃんのことを考えると、胸が苦しくてぎゅっとなって、そしてキュンとなる。大ちゃんのこともっと知りたいし、会いたいし、声が聞きたい、触れたい。

大ちゃんは私のことを好きだって言ってくれている。だけど私はまだ言えていない。好きって言葉が、こんなに遠く感じるなんて思わなかった。