一夜のあと、君に溺れる

じゅわ~っと揚げ油の食欲を誘う音がする。杏子さんのお弁当屋さんは、唐揚げはもとより揚げ物がとても美味しい。病院内に食堂もあるけれど、あまり美味しくないし営業時間も長くないので、よくお弁当を買いに行っている。病院の真向かいにあるし、医療従事者だけでなく病院帰りの患者さんにも重宝されているようだ。

「日替わり弁当を1つお願いします」

「はーい。かしこまりましたぁ」

杏子さんがにこやかにお弁当を包んでくれる。その姿を見ながら、そわそわと落ち着かない。他のお客さんはちょうど捌けて、今は私一人だ。

お弁当を買うことが目的だけど、今日はもう一つ、杏子さんに聞きたいことがあって来たのだ。だけどそれをなかなか言い出せないでいる。

「お待たせしましたぁ」

「あ、あの、杏子さん」

「はい」

「えっと……」

どうしよう。自分でもありえないほどモジモジしている。こんなの私らしくないと思うのに。

「何かあったの?」

「聞きたいことがあって……」

「うん、どうぞ」

「……だ、大ちゃんのことなんですけど」

「大ちゃん? 大ちゃんがどうかした?」

杏子さんはきょとんと首を傾げた。

「……大ちゃんと、元カノの実花さんって、お似合いでしたか?」

「……え? なんで桜子さんが実花ちゃんのこと知ってるの?」

「いや、その、この前バッタリ会って……」

もにょもにょと声が小さくなる私に、杏子さんはうーんと首を傾げつつ、「あっ!」と声を上げた。

「ちょっと待って。もしかして……もしかしてだけど、大ちゃんの朝帰りの相手って桜子さんだったりする?!」

「キャーキャーキャー! 杏子さん声が大きい!」

「ご、ごめん」

他にお客さんはいないけれど、二人してカウンターに身を預けるように小さくなる。実花さんのことを聞きたかっただけなのに、朝帰りのことがバレている。なんでなの……。