一夜のあと、君に溺れる

「ねえ大ちゃん、聞いてもいい?」

「うん」

「実花さんと、どうして別れたの?」

「あー、うーん……」

大ちゃんは片手で口元を押さえ、渋い顔をした。聞いちゃいけなかったのかもしれない。でも聞きたかった。

だって実花さんはとっても可愛らしくて、大ちゃんと並ぶとお似合いだったんだもの。その姿を思い出して、胸がズキッと痛む。

「……フラれたんですよ。家柄が気に入らないって」

「家柄?」

「結婚したら料亭で働きたくないって。働いてくれとは一言も言ってないんですけどね」

「そうだったの……」

「それに、家族経営なのも将来心配だからって。公務員とか大企業とか、安定した職業がよかったみたいですね」

「でも大ちゃん、安定してないわけじゃないでしょ。ちゃんと働いてるじゃない」

「それこそ、価値観の違いですよ。肩書に価値を見出す人もいれば、気にしない人もいる。さーちゃんは気にならない?」

「私は気にしないけど……」

と言いつつ、今まで父の選んだ人としかお見合いしていないから、あまり相手の肩書を気にしていなかった。たいてい、医師ばかりだったし。

かといって、相手が医師じゃなきゃ嫌だなんて思ったこともない。今だって、大ちゃんが好きってだけで、大ちゃんの職業について考えたことなどない。

それよりも――

「実花さんと結婚を考えてたってこと?」

「まあ、そんな感じだけど……もうなんとも思ってませんからね? もう終わった話です」

「よりを戻したいって思わないの?」

「思わないですよ。だって俺は今、さーちゃんのことが好きなので。だから早く俺のこと好きになってください」

「……!」

言葉に詰まる。私も大ちゃんのことが好きだけど……どうしてかその場で返事をすることができなかった。

自分が実花さんよりも良い女だよって、自信を持てなかったから。私には劣っているところがたくさんあるから。大ちゃんに相応しい私になりたい。