一夜のあと、君に溺れる

そんなわけで、従業員の格好のネタにされた俺だけど、どうやらうちの店は世話焼きがたくさんいるらしく、みんながいろいろなアドバイスをくれた。

ありがたいやらなんやら、アットホームな職場だなと少しばかり嬉しくなった。自分がネタにされるのはどうかと思うけど……まあいいか。

「大ちゃん、これあげるよ」

接客係の丸井さんにぎゅっと握らされたのは、映画のペアチケットだった。

「旦那が会社でもらってきたの」

「いいんですか?」

「いいよいいよ。まだ何枚かあるから、杏子ちゃんにもあげようと思ってたのよ。大ちゃんも朝帰りの彼女と行ってらっしゃいな」

「ゲホッ! ま、丸井さんまで」

「何よぉ、おばちゃんはね、若い子の恋バナに興味津々なの。ほら、自分がもう老夫婦だからさ、つまんないじゃない?」

「……そういうもんですか?」

「そういうもんなのよぉ」

バシッと腕を叩かれた。
俺、今日、皆から叩かれすぎじゃないか?

その後も、「大ちゃん聞いたよぉ」なんて、みんな揃いも揃って同じことを言ってくる。俺より若い従業員だけ、「大人怖ぇぇ」とまるで自分のことのように青ざめていた。

自分をネタにされるのはちょっとどうかと思うよな。でも俺は、幼いころから料亭に入り浸っていたから、古くからいる従業員に可愛がられているんだと思う。年齢は重ねていても、彼らから見たら俺はまだまだ子どもに見えるんだろう。

「……いい大人ですけどね」

そんなことを思いながらも、桜子さんと過ごした時間はずいぶんと子どものようにはしゃいだなと、笑みがこぼれた。

「宮越さん、何かいいことありました?」

「いや、今日も仕事頑張るかと思って」

「半年前に別れてもう新しい彼女とか、モテますよね」

「……お前もかーい」

もうツッコむ気力も薄れて、ははっと力なく笑う。もういいや、結局のところ俺は桜子さんに告白してるし、まだ彼女じゃないけど、彼女にしてみせるし。そうしたら従業員たちに自慢しまくってやる。

……やばい、俺の考え中学生レベルかもしれん。ちょっと落ち着こう。