一夜のあと、君に溺れる

私の思い描くシチュエーションとして、酔った勢いでワンナイトだけのつもりだったから、その後のことを何も考えていなかった。だから着替えなんてもちろんないし、化粧品だって化粧直し用のファンデーションとカラーリップしか持っていない。

ずいぶん行き当たりばったりな感じが、非日常感を与えてくれている気がして、私にとってはどれも新鮮だ。けれどさすがにこのままというわけにはいかないので、一度帰って着替えてから、改めてサイゼリヤへ行くことになった。

朝帰り……といってもお昼に近いけれど、そんなことをするのも初めてで、私ってば一晩でどれだけ憧れを叶えられたのだろう。

化粧をし直してカジュアルな洋服に着替える。なんとなくいつも通りの服を着てしまったけれど、それでいいのかしら? わからないことは大ちゃんに聞けばいいか。

待ち合わせの駅に到着すると、大ちゃんの方が先に待っていた。ネイビーのセットアップに、ホワイトのインナーシャツが清潔感漂う。結婚式で着ていたかっちりとしたフォーマルスーツとは違う、カジュアルでゆったりとした雰囲気。

「お待たせ」

「いえ、俺も来たところです。さ、行きましょうか」

歩き出した大ちゃんは、ふと立ち止まってこちらを振り返る。

「恋人の延長してもいいですか?」

「今日も彼氏になってくれるってこと?」

「はい」

「それってあれよね、サイゼリヤ初デートができるってことよね」

「うん? ……あっ、もしかしてまた憧れの何かがありますか?」

「そう、あるの。サイゼリヤが初デートだと有り得ないって話題になってたから、何があり得ないのか身を持って体験したかったというか」

「なるほどねぇ」

「ただ単にサイゼリヤに行ってみたかったっていうのもあるけど」

「相変わらず、桜子さんって可愛くて面白いですね」

大ちゃんはクスクス笑ったあと、私の手を握った。
ん? 手を繋ぐの……?