口説いてんの?


ドアを開けて、薫子は俊也を睨んでいた。

「何怒ってんだよ?」

「宇佐見君、ちょっとごめんね」

薫子は、凪斗に向けていた視線を

俊也に戻した。

「もう、大きな声で薫子って呼ばないで!」

「その事か?良いじゃん!

 俺、薫子って名前好きだけどなぁ」

「あんたは好きでも、私は嫌いなの!」



薫子は親に訊いた事がある。

「どうして《薫》じゃなくて《薫子》なの?

 どうして《子》がついたの?」

父親の答えは単純だった。

「なんとなくだ!」

「意味分かんないし!

 今時《子》なんて流行らないよぉ!」

だけど、名前を変えることは出来ないので

薫子は、薫と名乗るようになった。



「分かった、分かった。二人の時だけな」

「いっつもそう言って忘れるくせに~」

「機嫌直せ。宇佐見君が困ってるだろ?」

薫子が凪斗を見ると

本当に困った顔をして下を向いていた。