殺し屋のご飯

 俺は、別に虐待……ってほどではないと思うんだけど、親にないものにされていた。

 知らんぷり……ってものも多かったし、特に辛かったのは家事。

 家には悪臭が立ち込めていた。

 親が仕事以外何もしないから、俺が家事をするしかなかった。

 洗濯も、掃除も、……料理も。

 どれも誰かがやっているのは見たことがなかったけれど、人間の本能?的な感じので、やらないとまずいことくらいはわかった。

 家事をやってるのに、親には感謝どころか、俺をまっすぐ見てもらった経験もない。

 物語でよくある、『食べ物を勝手に食べただけで殴られる』とかは全くなかった。

 本当にどうでも良かったんだろうな、俺のことなんて。

 それはそれで、精神的にかなりきつい。

 ご飯は勝手に食えたけど、服はどうにもならなくて。

 大きさのあってない服を、着るしかなかった。

 俺なんて、いなくてもいいのかもしれない。

 そう思っていたとき、殺し屋がうちに来て、親だけを殺して帰って行った。
 俺を拾って。

 怖かったよ。

 俺はこの後、親みたいに肉にされちゃうのかって。

 でも、違った。

 『君、名前はなに?僕は、朝陽桜智(あさひ さち)』

 『わ、わから……ない……』

 親と話したことすらない俺には、名前なんてなかった。

 そもそも誰とも話したことのない俺の喉はほぼ閉まっていて、10歳くらいだったのにそれ以上に辿々しい喋り方だった。

 それでも言葉を出すまで、急かさずに待ってくれていた。

 『うーん。じゃあ、今日は月が綺麗だから、深月。どうかな?』

 『み…、つき』

 通ったことのなかった、学校っていう場所に俺を通わせてもらって。

 育ててくれた。

 『この写真誰?』

 『僕のバディ。僕の、一番大切な人。君にも、そんな人ができると良いね。』

 桜智さんは今思うとかなりの美形で、年も二十ほど。
 背が百八十センチはありそうなほど高くて、髪はハーフアップにした王子様系の男性。

 でも、その血のつながっていない、けれど俺が思っている本当の親である桜智さんは殺されて亡くなった。

 夜雨(やう)という子供に殺されたらしい。

 本当は俺もそこの現場にいたみたいだけど、何も覚えていない。
 
 記憶に蓋をしたのかもしれない。

 俺はそれから、その夜雨に復讐をするために、必死に勉強をしてきた。

 努力して、努力して、努力して……。

 やっと最強になれたと思ったのに、お前が……一夜がきた。

 いつも天真爛漫で、楽しそうで、笑顔のあなたが来た。

 一瞬で、最強の殺し屋になってしまうし。

 それでも謙遜して、遠慮してた。

 人を殺せるのかっていうほどに優しい。

 だけど俺は……
 そんなあなたに救われたんだ。


 「今日は桜智さんが、……亡くなった日なんだ。それで、俺の調子が狂ってて。ごめん」

 「そっか。教えてくれてありがとう。でも、無理は禁物ですからねっ!」

 わざとおどけて見せた。

 深月が、こくんと首を縦に振る。

 「話して、やっと少し心が楽になった。ありがと」

 わたしは机の上に置かれている、美味しそうなフレンチトーストが目に入った。

 「フレンチトースト、どうする?」

 わたしが聞くと深月の目線が、机へと向く。

 「明日の、朝ごはんにしよう。今日は、なんか冷凍食品が食べたい……かも」

 でも、冷凍食品の一つも家にないことに気がついた。

 いつも、彼がご飯を手作りしてくれているから。

 「一緒に買いにいこっか」

 彼はそう言ってくれたけど、体調悪そうだったので、しっかりと寝かせました。