殺し屋のご飯

 「ふわぁぁ」

 マヌケなあくびがわたしから出る。

 「ほら。肉じゃが作った。食えよ。頑張ってただろ?」

 「ありがと……」

 「まぁ、作戦会議しながらになるけど」

 目の前には、ほろほろとしたじゃがいも。
 お肉もいい匂いがする。

 実はわたしは、肉じゃがから旨みが滲み出た汁みたいなのが好きだったりもする。

 「いただきまーすっ!」

 熱くて、飲み込むのに時間がかかる。

 湯気からもいい匂いを感じた。

 「作戦会議するぞ」

 食べながら聞いた作戦は、こうだ。

 二手に分かれる。
 Aチームは、深月と日野くん。
 Bチームは、わたし一人。
 とりあえず、人と会わないように気をつけながら、秘密文書を探す。
 何かあったら、インカムで連絡を取る。
 本当に良くないことがあったら、秘密文書は諦めて、逃げる。

 「ふぅん。ふぃふぃほぉほぉふぅ」

 「ちょっ、口に入れながら喋るな、ばか」

 ばかとはなんだばかとは、そう思いながら飲み込んだ。

 「もう一度、言いますねー。うん、いいと思う」

 「……これをもう一回言ってもらう必要あったのか……?」

 「なかったと思う」

 「だよな」

 うんうんと頷く彼。

 「肉じゃが美味しかったよーっ!」

 とりあえず言っておく。
 美味しかった。
 一つを除けば、だけど。
 なんか、中に入っていたニンジンがすごく硬かったんだよね……。

 「嘘つくなよ。だって……なんか、味、すごく美味くなかったよな。俺も食ったけどさぁ。無理、するなよ」

 「は?何言ってるの……?」

 「ニンジンが硬くてまずかったって話!」

 「そんな、気になるほどじゃなかったよ?」

 一瞬、彼が泣きそうな顔をした。
 何か、飲み込んでいたものがあったのかもしれない。
 深月は、唐突に捲し立てるように早口で話し始めた。

 「お前は無理しすぎなんだよっ!そもそも、美味しさくらい誤魔化さずにいってくれよ」

 「美味しかったよ?」

 「お前、肉じゃが食う時、顔を一瞬しかめただろ?」

 その通りだ。硬くて、にんじんははあまり美味しくなかった。

 他は美味しかったけど!

 「最強の相棒、なんだよな?俺たち」

 『最強の相棒』は、わたしたちが強くてついた異名だ。

 「こんなんじゃ、敵なんか倒せねぇわ」

 すぐに彼は俯いた。

 深月は、こんなこと言いたいんじゃねぇ、と頭を抱える。

 そして、聞こえないくらいの声で言った。

 「無理、すると知らぬ間におかしくなるからな。俺みたいに無理すんなよ」

 「俺……みたいに……?」

 もしかして、わたしのせいで無理してる?

 深月と目が合う。

 弱々しく、深月は笑った。

 「ちょっと寝かせてくれ。おかしくなってるんだ、俺」

 「違うよ……。わたしが、無理、させちゃってるんだよ……」

 「はぁ?お前はっ、俺のことよりも、自分のことを優先しろよ!ばかっ!」

 「……深月だって一緒でしょっ!」

 じわりと視界が歪む。

 それを見て、彼は傷ついた顔をした。
 
 違う。

 自分に絶望した顔を、した。

 「寝てくる」
 
 そうとだけ言って、彼は、自分の部屋にこもってしまった。

 ……わたしのせいかも、しれない。